Vol.41 篠田正浩監督の多彩な世界

 

 

篠田正浩監督は、2作目の『乾いた湖』(1960)で、大島渚監督や吉田喜重監督らとともに松竹ヌーベル・ヴァーグの旗手として注目を浴びた。だが、それ以後、彼は、大島や吉田より遙かに多彩な作品を作っていくのである。それらを一括りにするのは難しいが、一つの流れとしては、近松門左衛門原作による『心中天網島』(1969)に代表されるような、江戸演劇に材をとった作品群がある。これは、篠田正浩の大学での専攻が、江戸演劇であったことによるのかもしれない。河竹黙阿弥の『天衣紛上野初花』に材をとった『無頼漢』(1970)も、この流れにある。


このような江戸演劇由来の作品とは別に、篠田作品には、清河八郎を主人公にした『暗殺』(1964)や、それに続く『異聞猿飛佐助』(1965)、さらには『沈黙』(1971)、『卑弥呼』(1974)、『桜の森の満開の下』(1975)等々のような時代劇も数多くある。大島渚の2本、吉田喜重の無理に数えて1本(笑)と較べたら、その何倍も作っているのだ。その多く、は原作があるのだが、それを選び、独自な表現で作品化していく篠田正浩の歩みは、なんとも自由闊達に見える。それは、大学時代、箱根駅伝の選手だったという、彼のスポーツマン気質に関係するのかもしれない。


今回のシネ・ヌーヴォで上映される5作品を作られた頃に並べると、『処刑の島』(1966)、『沈黙』(1971)、『はなれ瞽女おりん』(1977)、『舞姫』(1989)、『少年時代』(1990)ということになるが、いずれも労作・傑作の名に恥じぬ作品ながら、そこから受ける印象は、作品ごとに異なる。まさに多様、多彩なのだ。そして、その向こうに、いつも朗らかな笑みを浮かべる監督、篠田正浩がいるのである。そこから改めて浮かび上がるのは、映画作家・篠田正浩とは、何者なのか、という問いである。折角のこの機会、ご覧の皆さまも、どうぞ、一緒に考えましょう。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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