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時が経つのは速いもので、黒木和雄監督が亡くなって、もう20年経つのか。最近は、作品が上映される機会が少ないので、若い人は、あまり観ていないかもしれない。だが、ひとたび観れば、その作品世界の拡がりや深さに惹かれ、もっと観たいと思うに違いない。今回、シネ・ヌーヴォで上映されるのは、3作品だが、いずれ、可能な限りの作品を集め、大特集をやってもらいたい。岩波映画社時代に、企業のPR映画を撮るところから出発した黒木和雄が、そこで培ったドキュメンタリー的な手法と、彼のうちに内在する詩心が結びあって生まれた劇映画に出会うはずだからだ。
1966年、黒木和雄の劇映画第1作『とべない沈黙』が公開される。わたしは、これを、今はない新宿文化で観た。まず、何よりも、そのモノクロ映像の美しさに圧倒された(撮影:鈴木達夫)。それと蝶の化身たる加賀まりこの魅力に。彼女は、長崎から萩、広島と、日本列島を縦断しながら、最初に、ここにはいないはずの蝶を捕まえた少年のいる北海道を目指して旅をする。その土地土地で演じられるのは、いずれも実を結ばぬ愛の物語だ。ただ、従来の物語の枠組みを超えたこの映画は、日本では早すぎたのか、あまり受けなかった。フランスでは、ヌーヴェル・ヴァーグと絶賛されたのであるが。
今回のラインナップでは、この第1作から、一挙に、2000年代に跳ぶ。すなわち02年の『美しい夏キリシマ』と、遺作となった『紙屋悦子の青春』(06年)に。そして、これらこそ、戦雲ただならぬ現在、観るべき映画なのだ。というのも、ここには、1930年生まれで、戦時下に中学生として生き、苦しんだ黒木和雄の、あの時代への痛切な想いが息づいているからである。わけても『美しい夏キリシマ』の少年は、学徒動員先の工場が敵機に爆撃された時の和雄自身でもある。彼は生き延び、友は死んだ。その負い目を、黒木和雄は、終生、心に刻みつけていたのである。
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