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シネ・ヌーヴォの成瀬巳喜男特集も終盤にさしかかっているようだが、改めて振り返ると、成瀬ほど、女性の生き様を深く描いてきた映画作家はいないと思う。それは、戦前の『女人哀愁』や、『禍福』前後篇から、戦後、1950年代の『浮雲』前後の作品、さらに60年代の『女が階段を上る時』や『女の座』、『乱れる』などにしてもそうだ。ただ、わたしが観た戦前の作は、リアルであっても、どこかに明るさがあるのに対して、戦後の作は、深刻になっているように感じる。たとえば、『女人哀愁』の入江たか子は、婚家の嫁として忙しく働かされるのだが、家を出てしまえば自由になる。また『禍福』は、前篇こそ、入江たか子のヒロインは、将来を誓い合った男(高田稔)が、実家の苦境を救うため、金持ちの娘と結婚した結果、涙を飲んで別れるというメロドラマだが、後篇では、宿していた男の子どもを独りで育てる彼女を、それまでも彼女の力になっていた女友達(遭初夢子)が仕事先を紹介し、さらには、そこで働く入江を健気と見た男の結婚相手の女性(竹久千恵子)が、過去の経緯も知らぬまま、彼女を自宅に住まわせるという展開のなか、男の影が薄くなるのとは逆に、3人の女たちのシスターフッドともいうべき結びつきが明るさを増していく |
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上野 昻志(批評家・映画評論家) |
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◀vol.28 |