vol.33 時を超えて輝くカネフスキー三部作

 

 

ヴィターリー・カネフスキーの『動くな、死ね、蘇れ!』を最初に見た時の衝撃が忘れがたい。今回、これと、それに続く『ひとりで生きる』、さらにドキュメンタリー作品『ぼくら、20世紀の子供たち』を加えたカネフスキーの三部作が公開されるとは、なんたる幸せ! これを見逃したら、映画ファンの名が泣きますぜ。あの防寒帽をかぶったワレルカという悪ガキの面構え。そして、彼がやる悪戯を見ながら、なにくれとなく助ける守護天使ともいうべき少女のガリーヤ。時は第二次世界大戦後のソ連、舞台はカネフスキーが生まれ育った、ロシアの極東、沿海州に位置する鉱山町のスーチャン(現パルチザンスク)だ。


この町は、ウラジオストクとナホトカを結ぶシベリア鉄道の支線にあるというから、日本にも近い。収容所もあって、ソ連に抑留され、労働に従事する日本兵の姿も映り、彼らが歌う、よさこい節や炭坑節が聞こえてくる。そんな町の中を、12歳のワレルカは常に走り回っている。そのワレルカ役に、カネフスキーは、多くのストリート・チルドレンの中から、演技経験のない少年を選んだというが、その立居振舞い、実に自然で、元からここで生きてきたかと思わせる。彼が二人組に奪われたスケート靴を取り戻すのに一役買った守護天使ガリーヤも同様だが、これは、やはり演出の力であろう。


ワレルカが、悪気もなくやってしまい、時に重大な結果をもたらす悪戯の数々については、実際に映画をご覧下さい。これに続く『ひとりで生きる』は、ソ連が崩壊していく時期に作られたこともあり、前作より暗さを増した画面の中で、15歳になったワレルカが、母とも別れ、ガリーヤの妹とも別れて、自身の行く道を模索する姿が描かれる。そして、カネフスキーは、ソ連崩壊後の街で、盗みをするストリート・チルドレンや、殺人で刑務所に収監された少年、少女にインタビューを重ねていく。その『ぼくら、20世紀の子供たち』の最後に登場した2人の男女に気づいて、思わず胸が熱くなる。

 
 

上野 昻志(批評家・映画評論家)

 
 
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