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わたしはまだ行ったことがないのだが、9月17日の山中貞雄の命日に京都で行われる、「山中貞雄を偲ぶ会」に合わせたのか、シネ・ヌーヴォで山中作品の特集が行われる。 もっとも、特集と言っても、フィルムが残っているのは、3本だけだけどね。ただ、どれも、何度見ても面白い。そこには、笑えるとか泣けるといったレベルを超えた、映画ならではの輝きがあるのだ。それだけに、もっと観たいと思うのだが、山中作品の大半が喪失しているのは、なんとも残念、無念! 仕方なく、3作を見返すしかないのだが、その中で、わたしが一番好きなのは、『河内山宗俊』だ。
良いよなぁ! 15歳の原節子。不良の弟思いの彼女が営む甘酒屋に佇むその可憐な姿。そこに雨が降り始める時のショットの見事さ! あれぞ映画だ。家に寄り付かない弟の身を案じて、彼女は、賭場が開かれる、河内山の情婦の居酒屋を訪ねるが、弟が直次郎と名乗っているため行違う。その直次郎は、女郎と心中を図ったものの自分だけが生き延びる。その不始末を償うため、彼女は身を売る羽目になる。さあ、そこからだ! その昔、竹中労さんが、あの娘を助けるためなら、男は身を捨てるよな、と言っていたが、まさにその通り。河内山も金子市之丞も、追手と闘い、水路で命を捨てるのだ。
ここで、わたしは、河内山の情婦・お静に扮した山岸しづ江について触れたい。お静は、河内山がお浪(原)を愛おしむのに嫉妬して、彼女に冷たくするのだが、お浪を追う連中が彼女の居酒屋に押しかけると、河内山を往かせるため、一身で戸を支え殺されるのだ。『人情紙風船』では、武士の矜持を守る妻として夫と無理心中を果たす。いずれも、出場は少ないながら、見事な女ぶりを見せるのだが、何故か、キネマ旬報の俳優全集・女優篇に彼女についての記述はない。なんだ、キネ旬!?と、書くうちに、愉しさいっぱいの『丹下左膳余話 百万両の壺』に触れる余地がなくなったのが心残りだ。
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