|
1950年代の日本映画界は、それぞれの撮影所が得意とするジャンルを明確に打ち出していた。たとえば、東映の時代劇、但し、こちらはお子様も楽しめるチャンバラ時代劇が得意、それに対して大映も時代劇だが、重厚さが売り、一方、松竹は、女性のメロドラマや家庭劇、東宝は、黒澤御大による時代劇があるが、主流はサラリーマンもの、遅れて再出発した日活は、アクションという具合に。では、東宝争議の余波からスタートした新東宝はどうか? これが、はっきりせんのですよ! 文芸物があるかと思えば、戦争物があり、ハードボイルドもエログロもありという有様。それで舐められた!
だが、そんな世間の色づけを鵜呑みにするようでは、映画ファンの名がすたります。多様性が大事とされる今日この頃、あれもあり、これもありの新東宝こそ、時代に先駆けて(?!)多様な映画を作ってきた。と思えば、60年の時を超えた今、注目すべきではありませんか。ひとたび眼をこらせば、そこは宝の山。掘り出し物が続々と現れるはず。倒産寸前に世に出て一躍注目された『地平線がぎらぎらっ』だが、では、これの監督・土井通芳の前の作品、『汚れた肉体聖女』(58)や『黒い乳房』(60)は、どうなのか? 気になりません? わたしは見損なっているので、是非観たい。
ただ、わたしが今、それ以上に知りたい観たいと思うのは、小森白監督の作品だ。今回の特集では、『静かなり暁の戦場』(59)、『大東亜戦争と国際裁判』(59)、『太平洋戦争 謎の戦艦陸奥』(60)など戦争に関わる作品から、関東大震災時の大杉栄や朝鮮人虐殺などを描いた『大虐殺』(60)のほか、特集にはないが、58年には、『女の防波堤』という、敗戦後、米軍将兵の性処理のために作られた特殊慰安施設にいた女たちのその後を描いた作品があり、新東宝倒産後の大蔵映画では『太平洋戦争と姫ゆり部隊』(62)を撮っていると知れば、小森白のこだわりの根を見定めたい。
|
|