特集上映「日々をつなぐ」

『彼方のうた』『偶然と想像』『すべての夜を思いだす』等で撮影を担当したカメラマン・飯岡幸子と、「肌蹴る光線」の屋号で映画上映・執筆活動を続けてきた井戸沼紀美が企画する特集上映。1990年代以降に制作された5作の記録映画、それぞれの編集の手つきから、映画はいかに「生活」を映すことができるのかを考えるプログラム。シネ・ヌーヴォでは大阪特別プログラムとして『カラオケ喫茶ボサ』(監督:小田香)も特別上映!

 

 

 

撮影が終わり、しばらくカメラを持たない日々が続いた時、ああ生活が戻ってきたな、と思うことがあります。終わりのない毎日から抜け出すのではなく、その只中で、災害、街の変化、故郷を離れるということ、老いや病いを受け入れ、日々をつないで作られた映画にいつも尊敬とそのようにありたいとゆう憧れを持ち続けて来ました。生活を手放さずその中に立ちながらでも、どこまでだって遠いところへ行けるんだということを教えてもらった『チーズとうじ虫』。編集によって磨き出される日々の透明さに何度見ても目が開く『おてんとうさまがほしい』。長い間上映をしたいと思い続けてきた2作品を含む、それぞれの方法で生活と共にあろうとする映画の特集です。軽やかにきっかけをくれ、一緒に実現に動いてくれた井戸沼さんに感謝します。ぜひ毎日から抜け出さずに、見に来てください。【飯岡幸子】

 

 

 

10年前に知り合った飯岡幸子さんは、超格好良いカメラマンであると同時に、たまにちっちゃい笛やラクダのマグネットをくれたり、SNSで弱音を吐くとさりげなくメッセージをくれたりする大好きな人だ。だから、飯岡さんが関わった作品や、勧めてくれた映画は積極的に観たいと思う。今回の企画は、飯岡さんが何度か『チーズとうじ虫』の話をしてくれたことから始まった。病を患った母を「かわいそう」に撮らないどころか、この星で生きる一つの命として捉えようとする監督の構えに胸をうたれ、友人たちともこの映画の話ができたらいいなと思った。目や耳を何に向け、どう他者に伝えるか。身体と時間を何に使うか。特集で上映させてもらう映画はどれも、そんなことを自然と考えさせてくれる。仕事や学校、散歩やデモの帰り道に、足を運んでもらえたら嬉しいです。【井戸沼紀美】

 

 

 

上映作品(五十音順)

『Oasis』

2023年/日本/57分/監督:大川景子

アーティストの大原舞と自転車愛好家の下山林太郎。2人は自転車でどこへでも出かける。首都高の高架下で自転車を降りた彼らはカメラを携え、川沿いから路地へと入りこむ。人知れず繁茂する植物やミクロの昆虫、ボラの稚魚が大発生する河面……見つけたモノたちはやがて舞の絵へと昇華されていく。後日、同じ場所に街の音を採集しにくる黄永昌。彼は本作品の音を担当する。出会うことのない2組の時間によって物語が編まれていく。

 

 

 

『おてんとうさまがほしい』

1994年/日本/47分/撮影・照明:渡辺生/構成・編集:佐藤真

渡辺生さんは映画照明技師として、半世紀以上を多忙な映画界で生きてきた。穏やかな老後の生活を願い、そろそろ夫婦でのんびり過ごそうかと思い始めた矢先、妻・トミ子さんに痴呆の症状があらわれはじめた。渡辺さんはキャメラを担ぎ、痴呆の妻にファインダーを向けた。看病の日々を通して知り合った周囲の人々との交流を支えに、渡辺さんは、たった一人でトミ子さんとの日常を撮り続けてゆく。

 

 

 

『カラオケ喫茶ボサ』

2022年/日本/13分/監督:小田香

「未来への切望を詰め込んだ、タイムカプセルのような作品をボサで撮りたかった」。人間の生痕やそこに宿る記憶、私たちが存在し、存在したという痕跡を主題に長編映画を制作してきた小田香が、コロナウイルスの感染拡大が続き、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もない2022年3月に撮影した作品。大阪の郊外にある「カラオケ喫茶ボサ」で働く母親と、ボサに集まる人々の姿が8mmフィルムで捉えられている。

 

 

 

『空に聞く』

小森はるか監督、2018年/日本/73分/監督:小森はるか

東日本大震災の後、約3年半にわたり「陸前高田災害FM」のパーソナリティを務めた阿部裕美さん。地域の人びとの記憶や思いに寄り添い、いくつもの声をラジオを通じて届ける日々を、キャメラは親密な距離で記録した。津波で流された町の再建は着々と進み、嵩上げされた台地に新しい町が造成されていく光景が幾重にも折り重なっていく。失われていく何かと、これから出会う何か。時間が流れ、阿部さんは言う——忘れたとかじゃなくて、ちょっと前を見るようになった。

 

 

 

『チーズとうじ虫』

2005年/日本/98分/監督:加藤治代

余命1、2年と言われた母と高齢の祖母とある小さな田舎の町で暮らす監督。実の娘である監督が切り取る映像の中には、母の闘病と気丈な祖母、すぐ隣に住む兄夫婦とその子どもたちの成長があります。家族との無邪気な日常生活や散りばめられた母の姿を通して、家族の愛情と温もりが記録されていくはずだったのに……。あまりにも現実すぎる肉親の“死”と向き合い、生と死を撮影し続ける事を武器に「母の死」への理解と客観性を獲得していく……残されてしまった娘の、悲しいけれど何処にでもあるお話です。

 

 

 

『ヒノサト』

2002年/日本/42分/監督:飯岡幸子

祖父が一人で手作りし、一度だけ回してその音を確かめ出征したという古い蓄音機の物語をきっかけに、監督は画家であった祖父の残した絵を辿って日の里の町を歩き始める。静かに映し出される町の風景。絵。そして挿入される小さな文字。画家のアトリエに光が射し込む時、流れる三つの時間がにわかに接近する。福岡県宗像市「日の里」で制作された、映画美学校ドキュメンタリーコースの修了作品。

 

 

 

〈上映スケジュール〉


 

〈鑑賞料金〉

一般1600円、シニア1300円、会員・学生1200円、高校生以下・ハンディキャップ1000円
※招待券・回数券使用不可