「となりのスクリーン」〜 アートディレクターが選ぶ映像オムニバス〜


本映像オムニバスは、日本の各地で活動するアートディレクターによる映像キュレーション・プログラムです。既存の映像祭や美術館の専門家による選定とは異なり、地域にねざした視点から作品を推薦しています。地域コミュニティのなかで培われた眼差しは、従来の専門的な評価軸では見過ごされがちな、独創的な表現や試みに光をあてます。本プログラムでは作品そのものに加え、選定にいたるアートディレクターたちの眼差しや判断を提示することで、映像表現をとらえる複数の入口をひらくことを目指します。

選出された5作品は、「土地/他者との関係をいかに引きうけるか」という問いに、映像特有の「時間の記録性」や「被写体との心理的・物理的距離感」といった特性を活かして応答しています。そこには、家族や地域、国境や制度といった、すでに存在する関係性の中にみずからの身をおき、そのなかで生じる緊張感や摩擦、あるいは言葉にならない機微に向き合おうとする姿勢が貫かれています。

混沌とした現代社会を生きる私たちにとって、これらの映像がうつしだす情景は「どこか心あたりのある風景」として立ち現れるのではないでしょうか。映画がもつ時間は、映像のできごとを少しずつ他人から自分の物語へと近づけます。この立ちどまり、問いなおすための「スクリーン(壁)」こそが、別の視点をひらくと期待しています。

上映作品

Constructive Discussion / 建設的な会議

監督:西松秀祐|日本|2019|カラー|13分

2019年1月1日、7年ぶりに父方の祖母の家に家族が集まった。久しぶりに顔をそろえたその場で、私は家族に一つの提案をする。「みんなで組体操をしてみたい」。 一見すると馬鹿げたこの提案に対して、家族それぞれがどのように戸惑い、関わり、話し合っていくのか。その過程そのものを通して、言葉では語られにくい家族の関係性や力学、距離感が浮かび上がってくるのではないかと考えた。 本作は、日常では共に行うことのない行為を通して、家族という共同体のあり方を探るドキュメンタリー映像である。

 

西松秀祐 | Shusuke Nishimatsu

岐⾩県⽣まれ。大分県内を拠点に活動。2012年名古屋芸術⼤学芸術学部 (洋画コース) 卒業後、ドイツにあるブランシュバイグ芸術⼤学にて学ぶ。複層的な時間と記憶をテーマに、人々との出会いや自身の心の機微を、歴史や社会的な出来事と重ね合わせる詩的な作品を制作している。 主な展覧会に『Anytime』(由布院駅アートホール、由布院、2025年)、『A Breath of Time』(Grand Huit、Nantes/France、2024年)、『あたらしい場所』(アートギャラリーミヤウチ、廿日市/広島、2023年)、などがある。

 

あなたに話したいことがある

監督:佐々瞬|日本|2016|カラー|17分

本作は佐々瞬の個展「うたが聞こえてくる暮し(旅先と指先)」(2016年、ARTZONE、京都)にて発表されたインスタレーション作品「あなたに話したいことがある」の映像部分。本展は、京都造形芸術大学の学生(当時)藤本悠里子が卒業制作として企画した。リサーチで京都に訪れた佐々が、若きキュレーター藤本の家業や大学卒業後の不安を聞き知ったことをきっかけに本作が制作された。インスタレーションは映像、リリックシート(映像中曲の歌詞が婚姻届用紙に印字されたもの。)から構成される。本作を再展示した佐々の個展「あなたに話したいことがある」(2017年、Gallery TURNAROUND、仙台)では、京都嵯峨「藤本畳店」の畳を使用した座席が作品空間に加わった。

 

藤本悠里子
1994年京都市生まれ。京都造形芸術大学、秋田公立美術大学大学院卒業。2019年より現職、秋田市文化創造館開館の事業運営に関わる。企画制作した事業に「PARK-いきるとつくるのにわ」(秋田市、2022年)など。

 

佐々瞬 | Shun Sasa

1986年宮城県生まれ。2009年に東京造形大学 美術学科絵画専攻を卒業。現在、仙台を拠点に活動。 土地の歴史や人々の記憶に着目し、インスタレーションや映像、ワークショップなどを通じて表現を行う。地域に根ざした作品やプロジェクトを多数手がけ、国内外の展覧会に参加。

爪を切る #03

企画・監督・編集:板倉勇人|日本|2025|カラー|43分

『第七官界彷徨 尾崎翠を探して』の姉妹篇ともいえる1本。1930年代を背景にどこか風変わりで孤独な登場人物たちが織りなす幻想的な恋の物語を描く。

 

板倉勇人 | Hayato Itakura

複数の要素が重なり合う制作行為において、環境整理や空間構成の視点から介入し、干渉(/緩衝/鑑賞)地帯における設計行為を専門とする。また、 近年は 記録すること, 残す/遺される事象やその速度ついて関心を寄せ、記録行為とメディアを対象に制作を行う。

 

Private Property No Rights of Way

監督・編集:中島りか 撮影:Lina Chang |日本|2017|カラー|12分

2016年のアメリカにおけるトランプ第一次当選に続き、英国のEU離脱(Brexit)という政治的転換を移民としてイギリスで体験していた作家は、国境や国籍、帰属をめぐる言説が急速に硬化するなかで、「private」とは何かという問いに直面していた。 本映像作品は、南ロンドンのCamberwell周辺にあるキリスト教会の正面に複数設置されていた看板「PRIVATE PROPERTY / NO RIGHTS OF WAY(私有地立ち入り禁止)」を発見した場所から出発する。その建物が難民シェルターとして使用されていたことから、公共、宗教施設、私有地、支援と隔離が交錯する状況が浮かび上がった。救済のための共同体の開かれた場として想像されがちな教会の前で、立ち入り拒否の言葉が過剰に主張されていたことに、発見当初、作家は強い違和感を覚えた。そこで作家は、看板を移動させる行為によって、複数の「private」の領域が都市の中で立ち現れるのではないかと考えた。パフォーマンスでは、手書きの看板が作家自身の歩行に沿って都市のなかを反復的に移動していく過程で、境界そのものの不安定さが可視化されていく。

 

中島りか | Rika Nakashima

理性主義や資本主義的制度が規定する公/私の境界に関心を持ち、サイトスペシフィックなインスタレーション空間表現を主軸として、複数の表現領域を横断しながら制作を行う。主な展覧会に「TOKAS Project Vol. 8 絡まりのプロトコル」(TOKAS本郷、2025)、「INTERSTICE」(le ventre、2024)、「□より外」(TALION GALLERY、2023)など。

コールヒストリー

監督:佐々木友輔 共同脚本・朗読:菊地ゆき|日本|2019|カラー|89分 

福島県の一帯に〈声〉と呼ばれる都市伝説がある。 ふとした時、知らない誰かに声をかけられ、他愛もない会話をする。話しているあいだは気づかないが、後になってからはたと気づく。「さっきまで話していた人はヒトではなかった。私はいま〈声〉を聞いたのだ」と……。 幼い頃に体験した〈声〉に魅了され、三度目を聞くための手がかりを探し求める「彼」と、その探索に付き合ってきた「私の関係は、〈声〉に関心をもつ「美術家」の来訪をきっかけにして、少しずつ、だが決定的に変化していく。三者の心象風景を語る朗読音声と、彼らが見たであろう風景映像の重ね合わせによって佐々木友輔監督が描き出す、21世紀の風景論映画。

 

佐々木友輔 | Yusuke Sasaki

1985年兵庫県神戸市生まれ。映像作家・メディア研究者。映画・ドキュメンタリー制作を中心に、執筆・出版、展覧会企画など領域を横断した活動を続けている。主な長編映画に、『土瀝青 asphalt』(2013)、『コールヒストリー』(2019)、『映画愛の現在』三部作(2020)、『ファントムライダーズ』二部作(杵島和泉との共同監督、2025)など。現在、フィルムアート社のウェブサイト「かみのたね」で「風景のスクリーン・プラクティス」を連載中。

イベント

3/22(日)「となりのスクリーン」上映後、舞台挨拶
ゲスト:中島りかさん(『Private Property No Rights of Way』監督)、 西松秀祐さん(『建設的な会議』監督)、Yukawa-Nakayasu(本企画主催者)

アートディレクター

村上 滋郎 | Jiro Murakami
美術家、アメフラシ主宰、東北芸術工科大学美術科准教授

1983年山形県生まれ。京都市立芸術大学大学院修了。2013年より生まれ育った山形県長井市を拠点に活動。2015年に「アメフラシ」を結成。元印刷会社工場を活用した「kosyau」プロジェクトや、伝統的産業の草鞋・箒の継承プロジェクトなどを展開。2017年に地域の食材を活かしたクラフトビール会社「長井ブルワリークラフトマン」を設立。地域文化を活かした風景画のようなビール醸造を行う。https://ame-furashi.com/ 

 

森 純平 | Jumpei Mori
PARADISE AIR、東京藝術大学特任准教授

1985年生まれ。東京藝術大学建築科大学院修了。2013年より千葉県松戸を拠点にアーティスト・イン・レジデンス『PARADISE AIR』を設立。今まで560組以上のアーティストが滞在している。2020-株式会社 interrobang設立。2024-東京藝術大学特任准教授。主な活動に『MADLABO』(2011~21)、『遠野オフキャンパス』(2015-)、『八戸市美術館』(西澤徹夫、浅子佳英と共同、2017-)、『たいけん美じゅつ場VIVA』 (2019~)、『有楽町アートアーバニズムYAU』(2021-)、『相談所SNZ』など。

 

吉田 有里 | Yuri Yoshida
名古屋芸術大学准教授

名古屋市在住。Minatomachi Art Table, Nagoya[MAT, Nagoya]共同ディレクター、アッセンブリッジ・ナゴヤ共同ディレクター/名古屋芸術大学准教授。2004-2008年BankART1929スタッフ。2009–2013年あいちトリエンナーレのアシスタントキュレーターとして、まちなか展示の会場を担当。アートプロジェクトやフェスティバル、アートセンターにおけるコーディネート、企画、運営を専門とする。 https://www.mat-nagoya.jp/ https://assembridge.nagoya/

 

周山 祐未 | Yumi Suyama
Imabari Landscapes ディレクター

1986年愛媛県今治市生まれ。現代アートに関わるアートコーディネーター、ディレクターとして活動。主な活動に、「Tokyo Contemporary Art Award」(選考会運営事務局・2018, 2019, 2020)、「えひめさんさん物語 アーティスト in ファクトリー」(コーディネーター/広報・2018)、「岡山芸術交流」(制作・2019) などがある。2018年からは愛媛県今治市にて[身近にアートがある暮らし]をコンセプトに、アート・プロジェクト「Imabari Landscapes」を企画・運営している。https://imabarilandscapes.com/

 

家入 健生 | Kensei Ieiri
Art&Garden NEKOZE メンバー、NPO法人 BEPPU PROJECT ディレクター

熊本生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。在学中よりBEPPU PROJECTにて、国際芸術祭『混浴温泉世界』やアーティスト・イン・レジデンスの運営などに携わる。2013年より市立美術館『アーツ前橋』の学芸員として地域と協働したプロジェクトを担当するほか、住居・スタジオ・ギャラリーが一体となったアートスペース『Maebashi Works』をアーティストとともに立ちあげ、運営をおこなう。2018年より現職。「梅田哲也 イン 別府『O滞』」(2020)やAIR事業などを担当。オルタナティブスペース『Art & Garden NEKOZE』運営メンバー (2022年〜)。www.beppuproject.com www.instagram.com/artandgarden_nekoze

選考審査総評

今回の映像スクリーニングは、既存の映像祭や美術館の専門家によるキュレーションとは一線を画す試みとして始動しました。山形、松戸、名古屋、今治、別府といった日本各地で活動する5名のアートディレクターが、それぞれの地域に根ざした独自の眼差しで3作品ずつ推薦し、計15点の映像作品の中から5本を選出しています。

あらかじめテーマを設けない形式をとったことで、ビデオ・エッセイ、ビデオ・パフォーマンス、そして展示空間を前提とした映像(ビデオ・インスタレーション)など、表現形態は多岐にわたりました。ジャンルを軽やかに越境し、映像メディアが持つ広範な可能性を再確認させてくれる作品群を前に、最終選考は難航しました。

何よりも選考員が着目したのは、それぞれの作品が、そのアーティストでなければ歩み得なかった状況から生まれた「必然性」を伴っていた点です。10年以上にわたる長期的なリサーチや地域住民との対話、あるいは日常の何気ない行為に潜む機微――。それらは、アーティストが「今、ここ」という時代や社会に鋭敏に反応する中で立ち上がった映像群に他なりません。 通常、美術館や大学などの公的なアートプログラムを運営する際、アートディレクターは社会性や時勢、あるいは「鑑賞者へのわかりやすさ」を意識せざるを得ません。しかし本プロジェクトでは、そうした要請から距離を置いたからこそ、既成のジャンルを越境し、表現の可能性を押し広げる作品群に出会えたのだと感じています。個人のナラティブ(物語)が社会と接する瞬間に生じるノイズや揺らぎを、安易に排除せずそのまま提示すること。そこにこそ、本プログラムの意義を見出しています。

選出された5作品は、「土地/他者との関係をいかに引き受けるか」という現代的な問いに対し、映像メディア特有の「時間の持続性」や「対象との心理的・物理的距離感」といった特性を最大限に活かしていました。そこには、家族や地域、あるいは国境や制度といった、逃れようもなく既に存在する関係性の中に自らの身を置き、そこに生じる緊張感や摩擦、あるいは言葉にならない機微をそのままに受け入れる真摯な態度が貫かれています。混沌とした現代社会において、これらの作品は、私たちが安易な理解で立ち去るのではなく、一度立ち止まって思考を深めるための句読点としての可能性を秘めています。

一方で、惜しくも選出に至らなかった作品群が放つ熱量も、決して選出作に劣るものではありませんでした。都市やローカルへの果敢なアクション、あるいは自身の活動を通じて社会と多面的に関わろうとするアーティストの姿勢は、選考委員に多大な気づきを与えてくれました。今回はスクリーニングという形式上の制約から5本に絞る結果となりましたが、この選考の場は、今後も継続して関心を寄せ続けたい表現者たちとの「再会」であり、新たな「出会い」の場でもありました。これらの作品ともまた、別の形で協働の機会が訪れることを確信しています。

本プログラムは今後、日本国内のみならず海外の複数のアートスペースへの巡回を予定しています。この巡回を通じて、ある地域で生まれた視点が他地域の鑑賞者やアーティストと交錯し、新たな対話の場が生まれることを期待しています。本プログラムが、作品の上映に留まらず、人と地域、そして世界を結びつけ、国際的な共創へと発展する新たなアートネットワークを構築する確かな一歩となることを願っています。

入場料金

一般2000円
シニア・学生・会員1500円
※招待券・回数券使用不可

※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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スケジュール

日時:2026年3月21日(土)〜3月27日(金)17:10〜20:15 
会場:シネ・ヌーヴォX (大阪市西区九条1-20-24 シネ・ヌーヴォ内) 

▷映像プログラム
『Constructive Discussion / 建設的な会議』西松秀祐|日本|2019|カラー|13分
『あなたに話したいことがある』佐々瞬|日本|2016|カラー|17分
『爪を切る #03』板倉勇人|日本|2025|カラー|43分
『Private Property No Rights of Way』中島りか|日本|2017|カラー|12分
ーー休憩(10分)ーー
『コールヒストリー』佐々木友輔|日本|2019|カラー|89分