上野昂志『黄昏映画館』(国書刊行会)刊行記念 上野昂志による異貌の異本映画史 黄昏映画館

 

 

 

上野昻志『黄昏映画館』(国書刊行会)刊行記念上映会
上野昻志による異貌の日本映画史「黄昏映画館」

ご挨拶
 この度、国書刊行会の樽本周馬氏の頑張りにより、わたくしが、ざっと半世紀にわたり、書き散らしてきた日本映画に関する文章を集めた『黄昏映画館』という本が刊行されることになりました。それを機に、長年の友であるシネ・ヌーヴォ館主の景山理氏や支配人の山﨑紀子氏らが、俠気を発揮、記念上映会をやろうと乗り出してくれました。
 そこで選び出したのが、六月二十五日より上映いたします二十作品です。ですが、映画をよく御覧になる方は、このラインナップに、「?」っと首を捻られるかもしれません。然り。というのも、これらは、必ずしも、その監督の代表作とはいえない作品だからです。では、なぜ、それらを選んだのか。誰もが知っている代表作なら、観る機会はよくあるだろう、というのが第一の理由で、見落としがちな作品でも、こんな面白い映画がありますよ、とお伝えしたいというのが正直な気持です。と殊勝らしく申し上げる脇から、詳しくは『黄昏映画館』をお読みください、と編集者の横槍が入りました! なお、森﨑東監督作品は、昨年、こちらで特集をやったため、大島渚監督作品はこのあとの特集が用意されているので省いております。
 という次第で、皆々様、打ち揃ってご観覧のほど、切にお願い申し上げます。                                                  上野昻志拝

 

「黄昏映画館」開館にあたって

日本の映画批評において、蓮實重彦、山根貞男、山田宏一の三人が代表的な批評家であることは誰もが認めるところだろう。厳格にして野蛮な指導者として映画ファンをアジテートし続ける蓮實、日本映画の現在と格闘しながら22年かけて『日本映画作品大事典』を編集・刊行した山根、カイエ・デュ・シネマ同人から始まり一貫して自らの映画体験をエモーショナルに語る山田。マキノ雅弘や森一生への聞き書き、『ヒッチコック/トリュフォー 映画術』翻訳、雑誌「季刊リュミエール」編集などで互いに協働してきたこの三人のもう一つの共通点は何か……それは「上野昂志の編集者」であるということなのだ。山根貞男は雑誌「シネマ69」で上野に最初の映画批評(やくざ映画評)を書かせた。山田宏一は上野の第一映画評論集『映画=反英雄たちの夢』(話の特集、83年)を構成・編集した。蓮實重彦は編集長をつとめた「季刊リュミエール」で上野に川島雄三論、山田洋次論を書かせた。このように、優れた書き手である三人が文章を読みたい!と熱望してきた書き手が上野昂志なのである。
 映画の“肉体”を見つめてその面白さと魅力を引き出す、不断に反転する思考と深い洞察に裏づけされた上野批評は、主に鈴木清順や大島渚の批評で知られるが、残念なことにその日本映画批評をまとめた本が少なすぎて、その卓越した仕事は十分に知られているとは言えない。そこで今回ようやく、単行本未収録の日本映画論を中心にまとめた『黄昏映画館 わが日本映画誌』が25年ぶりの映画論集として980頁の巨大ボリュームで刊行される。ここには加藤泰、鈴木清順、大島渚、吉田喜重、森﨑東、黒木和雄、小沼勝についての長い論考、画期的な川島雄三論、抱腹絶倒の山田洋次論、相米慎二・北野武・阪本順治と並走する批評、豊田利晃・大森立嗣・横浜聡子など新しい作家を応援する文章といった50年分の豊饒な仕事が詰まっている。本書により、日本の映画批評には蓮實・山根・山田に並ぶ第四の男がいる、ということが明らかになるだろう。
 今回の刊行記念上映はいわば〈上野昂志への白紙委任状〉である。上野昂志が厳選した作品であると同時に『黄昏映画館』を読んだら絶対に観たくなる映画が20本も揃っている。現在スクリーンで観るのが困難な貴重な映画ばかりで、さらに35ミリフィルムでの上映作品が大半を占めるという本企画は奇跡的であり空前絶後のものだと断言したい。どうぞお見逃しなく!
                                         (国書刊行会編集部 樽本周馬)

上野昻志  (うえの  こうし)
1941年東京生まれ。評論家。66年、東京都立大学大学院在籍中(専攻は中国文学)に漫画雑誌「ガロ」の社会時評的コラム〈目安箱〉連載で執筆活動に入る。69年から山根貞男・波多野哲朗・手島修三編集の雑誌「シネマ69」にて映画批評も執筆し始める。73年『戒厳令』(吉田喜重監督)のプロデューサーもつとめた。2008~2013年、日本ジャーナリスト専門学校校長。著書に『沈黙の弾機 上野昂志評論集』(青林堂/71年)、『肉体の時代 体験的60年代文化論』(現代書館/89年)、『ええ音やないか 橋本文雄・録音技師一代』(橋本文雄と共著/リトル・モア/96年)、『映画全文 1992~1997』(リトル・モア/97年)、編著に『鈴木清順全映画』(立風書房/86年)、『映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀』(伊地智啓著/木村建哉と共編/インスクリプト/2015年)などがある。

上映作品(全20本上映)
※作品解説は、すべて上野昂志『黄昏映画館 わが日本映画誌』(国書刊行会)から引用したものです。

上映作品

伊藤大輔
『鞍馬天狗 黄金地獄』 ※『鞍馬天狗 横浜に現る』改題再公開版

伊藤大輔『鞍馬天狗 黄金地獄』一九四二年/大映京都/白黒/一時間三十分/十六ミリ
監督・脚本:伊藤大輔/原作:大佛次郎/撮影:石本秀雄/音楽:西梧郎/美術:角井平吉
出演:嵐寛寿郎、原健作、仁禮功太郎、水野浩、春日清、上田玲子、上山草人、内田博子

◆明治四年の横浜、贋金事件、ヘボン博士、そこに鞍馬天狗という、この組合わせはすべて伊藤大輔が考え、脚本にしたものだが、その着想の面白さにもまして面白いのは映画で、サーカス団が飛ばした風船と、杉作が蹴あげた下駄と、悪人が撃つピストルが一挙に重なるカットつなぎだけで、ドキドキする。

 

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清水宏
『花形選手』

清水宏『花形選手』一九三七年/松竹大船/白黒/一時間四分/十六ミリ 
監督:清水宏/脚本:鯨屋当兵衛(清水宏)、荒田正男/撮影:猪飼助太郎/音楽:伊藤宣二、島田康/セット:江坂実、穂苅貞一 
出演:佐野周二、日守新一、笠智衆、坪内美子、大山健二、近衛敏明、水戸光子


◆いったい、軍事演習をこんなに楽しげにやっていいのかと思うが、そこが清水宏の、清水宏らしいところだ。もっとも、そのあと川の浅瀬を走る学生たちを横移動で追うシーンの躍動感は素晴らしいし、また、坪内美子の旅芸人と佐野周二との淡い交流と、それ故の哀しく残酷な行き違いには、前半の楽しさとは別種の悲哀が漂っているのだが。

 

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マキノ雅弘
『昭和残俠伝 死んで貰います』

マキノ雅弘『昭和残俠伝 死んで貰います』一九七〇年/東映東京/カラー/一時間三十二分/DCP
監督:マキノ雅弘/脚本:大和久守正/撮影:林七郎/音楽:菊池俊輔/美術:藤田博/助監督:澤井信一郎 
出演:高倉健、藤純子、池部良、中村竹弥、長門裕之、加藤嘉、荒木道子、小林稔侍、永原和子

◆時は大正も末、所は深川。ここでなら、木場に名の通った料理屋のひとり息子高倉健の、義母への思いやり故の渡世人ぐらしも、また、たった一度の出会いから男を慕ってしまう辰巳芸者藤純子の想いも、それぞれの位置にぴたりと決ってしまうのだ(……)六〇年代におびただしく量産されたやくざ映画への美しい挽歌である。

 

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加藤泰
『日本俠花伝』

加藤泰『日本俠侠花伝』一九七三年/東宝/カラー/二時間二十九分/三十五ミリ
監督・原作・脚本:加藤泰/撮影:村井博/音楽:鏑木創/美術:阿久根巌 
出演:真木洋子、渡哲也、任田順好、安部徹、北大路欣也、加藤剛、藤原釜足、村井國夫、汐路章

◆久しぶりに、本当に久しぶりに、私は、映画にこめられた激しい情熱にうたれた。この深く激しい情熱に、私はいったいどのようなことばをもって対したらいいのか──よくはわからないでいる(……)『日本俠花伝』は、直接的に、私自身の情熱の根拠をうったのである。それは、私に、どのように生き、どのように死に得るかを問うたのである。

 

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川島雄三
『喜劇 とんかつ一代』

川島雄三『喜劇 とんかつ一代』一九六三年/東京映画/カラー/一時間三十四分/三十五ミリ 
監督:川島雄三/原作:八住利雄/脚本:柳沢類寿/撮影:岡崎宏三/音楽:松井八郎/美術:小野友滋 出演:森繁久彌、淡島千景、加東大介、フランキー堺、木暮実千代、水谷良重、三木のり平、山茶花究


◆廓やアパートで人が出会い、すれ違うさまを描くのが得意な川島雄三だが、ここでは、それに輪をかけ、人が次々と思わぬ所から出てくるのに面食らわされる。クロレラ博士?の三木のり平が、なぜかフランキーの腰にぶらさがったりと、川島のアナーキーぶり全開。
※この項のみ書き下ろし

 

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鈴木清順
『殺しの烙印』

鈴木清順『殺しの烙印』一九六七年/日活/白黒/一時間三十一分/三十五ミリ
監督:鈴木清順/脚本:具流八郎/撮影:永塚一栄/音楽:山本直純/美術:川原資三
出演:宍戸錠、南原宏治、玉川伊佐男、真理アンヌ、小川万里子、南廣、長弘、大和屋竺、緑川宏

◆(本作を観て「わけがわからん」と怒って清順を解雇した日活の社長)堀久作は、この映画に得体の知れない危険を感じたのである(……)『殺しの烙印』という映画が、そもそもわかろうとするわけを、つまりは意味を、徹底して蹂躙してしまう体の映画だったからである。

 

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黒木和雄
『竜馬暗殺』

黒木和雄『竜馬暗殺』一九七四年/映画同人社・ATG/白黒/一時間五十八分/三十五ミリ
監督:黒木和雄/脚本:清水邦夫、田辺泰志/撮影:田村正毅/音楽:松村禎三/美術:山下宏
出演:原田芳雄、石橋蓮司、中川梨絵、松田優作、桃井かおり、粟津號、野呂圭介、田村亮、外波山文明、山谷初男

◆この映画で特筆すべきことの一つは、黒木が、俳優の身体性ともいうべきものを引き出した点である。冒頭の、原田芳雄のむき出しの尻が、黒木と原田のどちらの思いつきから出たものかは知らないが、それが一つの予兆でもあったかのように、この映画は、徐々に原田や石橋や松田や中川の身体性を画面に浮き上がらせていくのだ。

 

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山田洋次
『喜劇 一発大必勝』

山田洋次『喜劇 一発大必勝』一九六九年/松竹大船/カラー/一時間三十二分/三十五ミリ
監督:山田洋次/原作:藤原審爾/脚本:森﨑東、山田洋次/撮影:高羽哲夫/音楽:佐藤勝/美術:梅田千代夫
出演:ハナ肇、倍賞千恵子、谷啓、佐山俊二、田武謙三、桑山正一、佐藤蛾次郎、芦屋小雁

◆もともと山田洋次という人は、死を過激に、それこそ手玉に取るようにしてその作品に持ちこんだ作家である。その、もっとも凄まじく、また面白くもあるのは『喜劇 一発大必勝』である(……)死を悲劇的にではなく喜劇的に、苛烈なユーモアをもって扱う姿勢は、70年代以降の『男はつらいよ』を中心とする山田作品からは消えていく。

 

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吉田喜重
『戒厳令』

吉田喜重『戒厳令』一九七三年/現代映画社・ATG/白黒/一時間五十分/三十五ミリ
監督:吉田喜重/製作:岡田茉莉子、上野昻志、葛井欣士郎/脚本:別役実/撮影:長谷川元吉/音楽:一柳慧/美術:内藤昭
出演:三國連太郎、松村康世、三宅康夫、八木昌子、倉野章子、菅野忠彦、内藤武敏

◆べつだん、自分がプロデューサーとして関わったからという訳ではなく、『戒厳令』は、吉田喜重監督作品の中でも、突出した傑作だと思う(……)叙情への十分すぎるほどの感受性を持ちながら、それを抽象的な空間に封じ込めようとする吉田喜重の志向の一つの到達点であろう。

 

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小沼勝
『花芯の刺青 熟れた壺』

小沼勝『花芯の刺青 熟れた壺』一九七六年/日活/カラー/一時間十四分/三十五ミリ
監督:小沼勝/脚本:松岡清治/撮影:森勝/音楽:樋口康雄/美術:土屋伊豆夫
出演:谷ナオミ、北川たか子、凡天太郎、花柳幻舟、蟹江敬三、中丸信、長弘、結城マミ


◆『花芯の刺青 熟れた壺』が正真正銘の傑作たり得ているのも、それが一貫して、見る/見られるという視線のダイナミクスによって劇を展開させているからである。たとえば、谷ナオミが自分がかつて思いを寄せた歌舞伎役者の息子と自分の義理の娘が階下で抱き合っているのを、中二階から目撃しながらオナニーするシーンの異様な美しさ。

 

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曽根中生
『わたしのSEX白書 絶頂度』

曽根中生『わたしのSEX白書 絶頂度』一九七六年/日活/カラー/一時間十分/三十五ミリ
監督:曽根中生/脚本:白鳥あかね/製作:伊地智啓/撮影:萩原憲治/音楽:コスモス・ファクトリー/美術:坂口武玄
出演:三井マリア、村国守平、益富信孝、芹明香、神坂ゆずる、梓ようこ、浜口竜哉、五條博


◆窓を開けて向かいのアパートを眺めていた三井マリアが、男の視線を感じて、すっと窓を閉める。そんななんでもないカットに、思わず背中がゾクッとしたのは何故だろう。見ることと見られること、その非対称なあり方を、あたかも対称的であるかの如く装う映画の危うさに触れていたからかなどと思うが、そんな思考を寄せつけぬほど映画は素早い。

 

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澤井信一郎
『日本一短い「母」への手紙』

澤井信一郎『日本一短い「母」への手紙』一九九五年/東映/カラー/一時間五十七分/三十五ミリ
監督:澤井信一郎/脚本:伊藤亮二、澤井信一郎/撮影:木村大作/美術:桑名忠之/音楽:坂田晃一
出演:十朱幸代、裕木奈江、原田龍二、鈴木砂羽、別所哲也、藤田敏八、勝野洋、淡路恵子、江守徹、小林稔侍


◆わたしが、『日本一短い~』はいいよ、傑作だよ、というと、たいていの人は、ええ、本当? という顔をする(……)題材的には、サスペンスにもミステリーにも縁遠いこの映画が、もっともスピーディでサスペンスに満ちた説話論的な展開を示しているというのは、ひとえに澤井信一郎のプロフェッショナルな力量が抜きん出ている証拠である。

 

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布川徹郎&NDU
『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』

『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』一九七一年/NDU(日本ドキュメンタリストユニオン)/一時間三十四分/ブルーレイ[原版十六ミリ]/ドキュメンタリー ※最終部分及び音声の一部欠落
スタッフ:布川徹郎ほか


◆底辺から捉えた沖縄の「現在」が万華鏡のように揺れている。ここには、それらしい政治的なメッセージはない。だが、それゆえに、あの時の沖縄を、相互に重なりながらも、それぞれが断片として散らばる多様なファクターの集合として提示し得たのである。しかし、ここには時間がない。ひたすらなる現在があるだけだ。

 

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北野武
『その男、凶暴につき』

北野武『その男、凶暴につき』一九八九年/松竹富士/カラー/一時間五十三分/三十五ミリ
監督:北野武/原案:奥山和由/脚本:野沢尚/撮影:佐々木原保志/音楽:久米大作/美術:望月正照
出演:ビートたけし、白竜、川上麻衣子、佐野史郎、芦川誠、吉澤健、趙方豪、遠藤憲一、寺島進、岸部一徳


◆両手を真っ直ぐ伸ばし、前方を見つめ、地面を蹴りたてるようにして、向こうから歩いてくる男。監督北野武の名が記された最初のフィルムで強烈に焼き付けられたのは、そのことだった。むろん、われわれが直接目にしているのは、俳優ビートたけしの肉体であったが、人が歩くという単純な行為を、映画に、あれほど強く提示したのは監督の北野武である。そこに彼の初心がある。

 

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相米慎二
『魚影の群れ』

相米慎二『魚影の群れ』一九八三年/松竹富士/カラー/二時間十五分/三十五ミリ
監督:相米慎二/原作:吉村昭/脚本:田中陽造/撮影:長沼六男/音楽:三枝成章/美術:横尾嘉良
出演:緒形拳、夏目雅子、十朱幸代、佐藤浩市、矢崎滋、三遊亭円楽、石倉三郎、下川辰平、工藤栄一


◆われわれは相米慎二の世界に滑り込む(……)風や波の動きによって絶えず形を変えてゆく砂丘がそうであるように、変動きわまりない不定形の世界だ。位置よりは運動が支配的な世界だ。いや、というよりは、平坦な表面と明快な構図に収まっている世界を、是が非でも動かしてしまおうとする凸凹の運動の軌跡こそが、相米慎二の映画の時空を形作っているというべきだろう。世界は運動体としてあるのだ。

 

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佐藤真
『阿賀に生きる』

佐藤真『阿賀に生きる』一九九二年/阿賀に生きる製作委員会/カラー/一時間五十五分/ブルーレイ[原版十六ミリ]/ドキュメンタリー
監督・編集:佐藤真/撮影:小林茂/音楽:経麻朗


◆『阿賀に生きる』は、いまでは稀になりつつある体験、つまり、映画でしか見ることのできない素晴らしい顔を見せてくれる、そういう映画なのだ。出てくるのは老人ばかりなのだけれど、それが本当にいい顔をしていて、彼らを見ているうちに自分も早く老人になりたいと思ってしまうくらいに。

 

 

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阪本順治
『行きずりの街』

阪本順治『行きずりの街』二〇一〇年/東映/カラー/二時間三分/三十五ミリ
監督:阪本順治/原作:志水辰夫/脚本:丸山昇一/撮影:仙元誠三/音楽:安川午朗/美術:小澤秀高
出演:仲村トオル、小西真奈美、南沢奈央、窪塚洋介、佐藤江梨子、谷村美月、杉本哲太、井浦新、石橋蓮司、江波杏子


◆地熱のように胸中深く沈潜していた想念が不意に噴出するパッションを、正面きって描くこと(……)黒澤満が製作し、脚本を丸山昇一、撮影を仙元誠三という陣容が、彼をして、このほとんど反時代的ともいえる課題に差し向けることになったのかもしれない。そして阪本は、そのキャリアにふさわしい技量をもって、それに見事に応えた。

 

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瀬々敬久
『黒い下着の女 雷魚』

瀬々敬久『黒い下着の女 雷魚』一九九七年/国映=新東宝/カラー/一時間十五分/三十五ミリ
監督・原案:瀬々敬久/脚本:井土紀州、瀬々敬久/撮影:斉藤幸一/音楽:安川午朗
出演:佐倉萌、伊藤猛、鈴木卓爾、穂村柳明、のぎすみこ、外波山文明、佐野和宏、吉行由実


◆瀬々敬久の『雷魚』を見た。感動した。とりわけ、その風景に、心うたれた(……)ここでは、殺人も自殺も、風景のなかで、少しずつずれながら人から人へと伝播してゆくのである。あるいは、そのような人間を囲繞するものとして、なんの変哲もない風景があるといってもいい。こんな風景を見たのは実に久しぶりだという気がする。

 

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豊田利晃
『UNCHAIN アンチェイン』

豊田利晃『UNCHAIN アンチェイン』二〇〇一年/フィルムメイカーズ=リトル・モア/カラー/一時間三十八分/三十五ミリ/ドキュメンタリー
監督・撮影:豊田利晃/音楽:ソウル・フラワー・ユニオン/編集:日下部元孝/ナレーション:千原浩史
出演:アンチェイン梶、ガルーダ・テツ、西林誠一郎、永石磨


◆豊田利晃の、常に敗北する者へのこだわりは尋常ではない(……)アンチェイン梶のように、必敗の坂道を駆けくだる者には、おそらく死への欲動のようなものが強く働いているのであろうが、豊田利晃にもそれが人一倍強くあるのだろうか。それは、むろん第一作の『ポルノスター』にも窺えたが、この『アンチェイン』では、より素直に、むしろ彼の強面の顔の陰に隠れた無類の優しさとして現れていたように思われる。

 

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大森立嗣
『ぼっちゃん』

大森立嗣『ぼっちゃん』二〇一二年/アパッチ/カラー/二時間十分/DCP
監督:大森立嗣/脚本:大森立嗣/共同脚本:土屋豪護/撮影:深谷敦彦/音楽:大友良英/美術:黒川通利
出演:水澤紳吾、宇野祥平、淵上泰史、田村愛、鈴木晋介、遠藤雅、今泉惠美子、三浦景虎
日向丈


◆自身の孤独に直面した梶(主人公)が、どのような行動をするか(……)彼は、このとき確かにブサイクという殻を破るのだが、その先は?大森立嗣は、ここでマジに問いかける。煉獄をさまよう孤独な魂を浄化する火は、戦争か革命しかないのではないかと。然り。その言やよし。

 

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スケジュール

KADOKAWA1953 ©1937松竹株式会社 ©東映株式会社 ©1973松竹株式会社 ©東宝株式会社 ©日活株式会社 ©1974 映画同人社/東宝 ©1969松竹株式会社 ©1973 現代映画社/ATG ©1989 松竹株式会社 ©1983 松竹株式会社 ©)阿賀に生きる製作委員会 ©)KOKUEI CO. © film-makers inc. /Little More Co.,Ltd. © Apache Inc.

◎ほとんどの作品を35ミリプリントでフィルム上映します。古い作品が多数を占めるため、プリント状態の不良、上映中のフィルムトラブル、やむを得ない事情による作品や上映時間の変更などの可能性が予想されますが、その際は何卒ご容赦ください。

イベント

 

★6/25(土)13:20『戒厳令』上映後トーク
ゲスト:上野昂志さん

★6/26(日)11:55『喜劇 とんかつ一代』上映後トーク
ゲスト:上野昂志さん

★7/10(日)14:35『行きずりの街』上映後(予定)対談
ゲスト:阪本順治監督×上野昂志さん

★7/16(土)14:45『UNCHAIN アンチェイン』上映後舞台挨拶
ゲスト:アンチェイン梶さん、永石磨さん

入場料金

当日券

一般1,500円/シニア1,200円/学生・会員1,100円/高校生以下1,000円
一般3回券3,900円/シニア3回券3,300円/学生・会員3回券3,000円/書籍『黄昏映画館』付き3回券10,000円※劇場窓口でのみ販売

※ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券は受付窓口 で指定席をお選びの上ご購入ください。開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
前売券なども受付にて座席指定券とお引き換え下さい。1週間前よりオンライン&窓口でご購入いただけます(ただし、前売券は窓口のみ。)
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
オンラインチケットはこちら

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予告

生誕90年 映画監督・大島 渚
2022年7/23(土)〜8/26(金) ※予定
常に権力と闘い、様々な問題作を発表し、社会を挑発し続けた大島渚監督(1932-2013)。現代日本を代表するばかりか世界映画史に大きな足跡を残した稀有な映画作家。2022年、大島渚監督生誕90年を機に、デビュー作『愛と希望の街』(59年)から遺作『御法度』(99年)まで大島渚監督全作品一挙上映!!

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