特集上映 映画探偵+戦前SF映画

 知られざる日本映画の世界にご案内します。キーワードは「映画探偵」と「戦前SF」。映画の黄金時代と言われた戦前作品のうち、現在も見ることができるのは1割程度にすぎません。しかし「失われた」フィルムがすべて消滅したとは限りません。近年、様々な立場の「映画探偵」たちによるフィルム発掘が盛んになりつつあります。実は関西は映画発掘の中心地でもあります。巨匠の名作ばかりではありません。知られざる佳作や当時は顧みられなかった野心作、そして愛すべき怪作・珍作まで…… 
 「シン・ゴジラ」が注目を集めていますが、そもそも戦前にSF映画というものはあったのでしょうか。円谷英二の師・枝正義郎が手掛けたという、創成期の特撮はどのようなものだったのでしょう。これも近年少しずつ光が当たり始めました。
『戦前日本SF映画創世記』『映画探偵』(ともに河出書房新社)で紹介した作品から厳選してお届けします。ぜひ書籍をお手元にお楽しみください。
(高槻 真樹)

上映作品

1. おもちゃ映画ミュージアム (計88分)

「荒木又右衛門(松之助版)」
1925年/4分/日活大将軍/サイレント/35mm/おもちゃ映画ミュージアム
監督・脚本:池田富保/撮影:浜田行雄、松村清太郎
出演:尾上松之助、河部五郎、新妻四郎、市川市丸、大谷鬼若

「荒木又右衛門(悪麗之助版)」
1930年/16分/松竹下加茂/サイレント/35mm/おもちゃ映画ミュージアム
監督・脚本:悪麗之助/原作:大隈俊雄/撮影:杉山公平
出演:月形龍之介、堀正夫、高田浩吉、高松錦之助、広田昴

「尊皇」
1926年/6分/阪東妻三郎プロダクション/サイレント/35mm/おもちゃ映画ミュージアム
監督・脚本:志波西果/撮影:鈴木博
出演:阪東妻三郎、森静子、中村吉松、中村琴之助

「玩具映画セレ クト
おもちゃ映画ミュージアム
(火星飛行、探偵ターチャン殺人電波、正ちゃんの動物地獄、怪傑たか、夢現三百年往来、忍術真田十勇士、忍術大進軍)

「僕らの弟」
1933年/42分/日活太秦/サイレント/デジタル/おもちゃ映画ミュージアム
監督:春原政久/原作・脚本:依田義賢/撮影:内田耕平
出演:中村英雄、西村五男、村山行代、佐藤圓治、須藤恒子


♦京都でおもちゃ映画ミュージアムを運営する、太田米男・大阪芸大教授発掘のプログラムを集めた。まだビデオのない時代。感動の欠片だけでも手元に置きたい、との需要に応えて生まれたのが「おもちゃ映画」である。数十秒から数分の断片にすぎず、これまで軽視されてきた。しかし、晩年の重厚な松之助や、虚無的監督と評されてきた悪麗之助のコミカルな一面など、驚きが満載だ。「僕らの弟」は全長版の中編で、「三等重役」などで知られた春原政久監督のデビュー作。太田教授の調査で、発見後埋もれていた作品の価値が判明した。ここ九条にほど近い此花区を舞台にした「ご当地映画」という点でも注目したい。他にインパクト絶大のSF玩具映画も。

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2. フィルムセンター/トーキーの秀作・怪作(計108分)

「チョコレートと兵隊」
1938年/74分/東宝映画/35mm/東京国立近代美術館フィルムセンター
監督:佐藤武/脚本:石川秋子/撮影:吉野馨治
出演:藤原釜足、沢村貞子、霧立のぼる、高峰秀子、汐見洋、横山運平、小高まさる、若葉きよ子、津田光男

「怪電波の戦慄 第二篇 透明人間篇」
1939年/34分/大都映画/35mm/東京国立近代美術館フィルムセンター
監督:山内俊英/脚本:大井利與/撮影:下村晴夫
出演:水原洋一、水島道太郎、藤間林太郎、夢路妙子、四方利男

◆国立映画保存機関のフィルムセンターが積極的な貸し出しに応じるようになったのはごく最近。コレクションの巨大さが、ようやく実感を持って語られるようになった。「チョコレートと兵隊」は、中国戦線で息子のためにチョコレートの包み紙の景品点数を集める父親の小市民的悲劇。日米戦争時に敵国研究の一環として使われ、フランク・キャプラが絶賛したという。なぜかUCLAで発見され、奇跡的に里帰りを果たした。「怪電波の戦慄」は、日本初の商業SF映画と思われる「怪電波殺人光線」三部作(36)の、トーキーリメイク版。主人公ロボット・人間タンクの圧倒的な存在感が見逃せない。藤田まことの父・藤間林太郎出演作という点でも注目。

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3. 神戸映画資料館(プラネット映画資料図書館)(101分)

「海魔陸を行く」
1950年/53分/ラジオ映画/35mm
監督:伊賀山正徳/原作:今村貞雄/脚本:松永六郎
声の出演:徳川夢声


「サザエさん 七転八起の巻」
1948年/48分/マキノ映画/35mm
監督:荒井良平/原作:長谷川町子/脚本:京都伸夫
出演:東屋トン子、水野浩、宮城千賀子、滝沢静子、沢蘭子

◆旧作映画の上映でプラネットのお世話になった、という関西在住映画ファンは多いだろう。プラネット代表にして神戸映画資料館館長でもある安井喜雄氏のコレクションはざっと1.5万本。フィルムセンターに継ぐ国内2位の収蔵量を誇る。フィルムセンターでカバーできていない名品・珍品がずらりと並ぶラインナップは圧巻で、このプログラムでは特に戦後の知られざる珍品を紹介する。「海魔陸を行く」は、捕らわれたタコが陸上で脱走、様々な動物たちに出会いながら一路海を目指すという奇想に満ちた作品。徳川夢声ナレーションが無駄に豪華。「サザエさん」はマキノ映画による戦後初の実写版。戦後風俗を取り入れた奇想天外なミュージカルである。

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4. 無声珍品集/神戸映画資料館・マツダ映画社・フィルムセンター(89分)

「義人呉鳳」
1932年/42分/台湾プロダクション/16mm/サイレント/神戸映画資料館
監督:安藤太郎、千葉泰樹
出演:秋田伸一、津村博、湊明子、丘はるみ



「密林の怪獣群」
1938年/41分/大都映画/16mm/サイレント/マツダ映画社
監督:山内俊英/原作・脚本:有田彰夫/撮影:下村晴夫
出演:大岡怪童、山吹徳二郎、雲井三郎、大山デブ子、大塚弘



「曼珠沙華」
1945年/8分/35mm/カラー/サイレント/東京国立近代美術館フィルムセンター
製作:柿本久夫



◆多様なサイレント映画の姿をセレクトした。「義人呉鳳」は、ヌ―ヴォでも上映され話題を集めた「セデック・バレ」の鏡の裏側の物語。台湾先住民の首狩りの伝統をやめさせた清朝の役人を讃えた巧妙なプロパガンダ。「密林の怪獣群」は、米映画「キング・コング」上陸の衝撃から生まれた奇怪な類人猿映画。B級映画のエース・大都映画の製作で、大山デブ子も主演する話題作だが、「怪物」を見せる方法が確立されていなかった時代の珍妙な演出に唖然。「曼珠沙華」はなんと1945年9月、終戦の翌月に、奈良・五條の個人映画作家柿本久夫が手掛けた無声カラー幻想映画。高槻の調査で背景が判明。


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5. 無声名作+怪作/サンポードシティ(ゴス・フィルモフォンド)・マツダ映画社(92分)

「何が彼女をさうさせたか」
1930年/帝国キネマ/78分/デジタル/サウンド版/サンポードシティ
監督・脚本:鈴木重吉/原作:藤森成吉/撮影:塚越成治
出演:高津慶子、藤間林太郎、小島洋々、牧英勝、濱田格

「弥次喜多岡崎猫退治」
1937年/14分/大都映画/16mm/サイレント/マツダ映画社
監督・原作・脚本:吉村操/撮影:広川朝次郎
出演:大岡怪童、山吹徳二郎、大山デブ子、飯塚小三郎、谷定子

◆第七藝術劇場などが入居する十三のレジャービルは関西の映画ファンにはおなじみ。ここを運営するサンポードシティの先代社長・故山川暉雄氏が独力でロシアに渡り、ゴス・フィルモフォンドのフィルムの山の中から「何が彼女をさうさせたか」を発掘した。大阪で一時繁栄を築いた帝キネの代表作。山川氏は創業者山川吉太郎の孫でもある。不思議に上映の機会が少ないが、今回・片岡一郎氏によるヌ―ヴォ初の活動弁士付き上演を試みる。復元を指導したのは太田米男教授。「弥次喜多 岡崎猫退治」は、着ぐるみ特撮によるB級テイスト満載のパロディ時代劇。寺山修司がオマージュをささげたことでも知られる、ヒロインの大山デブ子が不思議にキュート。

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6. 特撮事始/神戸映画資料館・フィルムセンター(86分)

「忍術千一夜」
1939年/50分/大都映画/16mm/サウンド版/神戸映画資料館
監督:大伴龍三/脚本:三品文雄/撮影:金森利之
出演:近衛十四郎、水川八重子、クモイ・サブロー、大岡怪童、高原富士子

「五郎正宗孝子伝」
1915年/36分/天活/35mm/サイレント/東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
監督:吉野二郎/撮影:枝正義郎
出演:澤村四郎五郎、市川莚十郎、中村吉三郎

◆円谷英二以前の特撮はどのようなものだったのか。日活の尾上松之助による「児雷也」や「渋川伴五郎」は比較的目にする機会が多いが、ライバルであった天活の澤村四郎五郎は忘れられて久しい。カメラマンとして様々な考案を行った枝正義郎の技術を、残されたただ1本のフィルム「五郎正宗孝子伝」から検証する。特撮は末尾に簡単な吊りや消失トリックが使われているのみだが、凝ったカメラワークと丁寧な演出に注目したい。枝正義郎は「花見の喧嘩」を仲裁した逸話が有名で、円谷英二の師となった人物。「忍術千一夜」は、大都ならではのおおらかな特撮を交えたコミカルなチャンバラ時代劇。若き日の近衛十四郎の太刀裁きの見事さも必見。

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舞台挨拶、トークショー開催!!

7/16(土)12:55 ★弁士付き上映 『何が彼女をさうさせたのか』(弁士:片岡一郎さん)
  上映後トークショー ゲスト:片岡一郎さん(活動写真弁士)、高槻真樹さん

7/18(月・祝)12:55 おもちゃ映画プログラム
  上映後トークショー ゲスト:太田米男さん(おもちゃ映画ミュージアム)、高槻真樹さん

入場料金

前売券

前売1回券1,200円
※前売券は、劇場窓口、チケットぴあ、セブンイレブン、サークルKサンクス(以上Pコード:466-807)他にて好評発売中!

当日券

一般1,400円/学生1,200円/シニア1,100円/会員1,000円/高校生以下800円

※連日朝より当日分の整理番号つき入場券の販売を開始します。
ご入場は各回10〜15分前より整理番号順となりますので、前売券なども受付にて入場券とお引き換えください。

スケジュール

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