戦前の戦意昂揚映画から、戦争の悲劇を描く反戦映画、さらには戦争スペクタクル大作まで、創り続けられた日本の戦争映画の数々。戦後80年の今こそ見たい多様な戦争映画の相貌と、「戦争NO!」の思いを世界に!
◆1945年8月15日の第二次世界大戦における日本の無条件降伏から、この夏、戦後80年を迎える。戦後の精神だった国際協調、反戦・平和への思いが、まったく失われようとしている今、世界、そして日本はどうなっていくのか――。世界で戦争映画があまた製作されてきた。 とりわけ世界で唯一の被爆国・日本では、未曾有の原爆被害の作品から、戦場はもとより銃後の悲劇を描いた戦争映画が数多く創られ続けてきた。「戦争の悲劇を繰り返してはならない」と、一部はエンターテイメントの形を取りながらでも、後世に語り繋ごうと創られてきた戦争映画。 戦前の戦意昂揚映画から、戦争の悲劇を描き、なぜ避けられなかったのかに言及する作品、さらには戦争スペクタクル大作、アジア侵略への反省・謝罪を描いた作品など、実に多彩で膨大な戦争映画の数々。しかし、もう戦争をしてはならないと訴えたり、敵と味方の相互の和解を描くなど、そこに通底する思いは、「戦争NO!」である。かつて戦争映画は、戦争体験者によって創られてきた。亡くなった戦友、遺族らへの鎮魂の思いと、自らの戦争による深い傷跡を見つめた体験者にしか描けない映画の数々。そんな戦争から時間が経過した今も、先人たちに続き戦争を知らない世代が、風化させてはならない戦争の悲劇を連綿と創り続けている。◆戦後80年のこの夏、8つのジャンルに分け、問題作・娯楽大作を含め、日本の多彩な戦争映画40作品を一挙上映します。厳しいミニシアターの現状で、我々にとってはチャレンジの企画です。しかし、戦後80年の今だからこそ、また世界で頻発する戦争の終わりが見えない時代だからこそ、先人たちが撮ったバラエティー豊かな「戦争映画」を上映したいと思います。どうぞ皆様、ご来館くださいまして、共に戦争映画の数々をご覧いただきますようお願いいたします。
上映作品
戦意昂揚映画戦意昂揚映画
国家統制され、自由に映画が作れなかった時代、ひたすら戦争を賛美する映画が作られた。
五人の斥候兵
1938年/日活多摩川/78分/デジタル
監督・原作:田坂具隆/脚本:荒牧芳郎/撮影:伊佐山三郎/美術:松山崇
出演:小杉勇、見明凡太朗、伊沢一郎、井染四郎、長尾敏之助、星ひかる、井上敏正
◆日中戦争の最前線、敵陣偵察の指令を受け選ばれた5人の斥候兵。過酷な自然と敵との激しい機銃掃射に遭遇しながらも、任務を遂行しようとするが…。兵士たちの相貌と友情を細やかに描き出す戦意昂揚映画。しかし、疲弊した兵隊たちなど、あたかも反戦映画の面持ちも。第6回ヴェネチア国際映画祭で海外における日本映画初受賞となる。
ハワイ・マレー沖海戦
1942年/東宝/115分/35mm
監督・脚本:山本嘉次郎/脚本:山崎謙太/特技監督:円谷英二/撮影:三浦光雄、三村明ほか/美術:松山崇ほか
出演:大河内傳次郎、伊東薫、英百合子、原節子、中村彰
◆太平洋戦争の開戦を祝うため、海軍の後援で製作された国策映画。海軍飛行兵に志願した少年が軍人として成長する姿を軸に、ハワイ真珠湾への奇襲とマレー半島沖での英軍艦隊への攻撃を描く。円谷の見事なまでの特撮や日本の快進撃などに国民は狂喜。まさに戦意昂揚映画の頂点。ミッドウェイ海戦で敗北した年の暮れに公開。
マレー戦記・進撃の記録
1942年/山下兵団報道班・日本映画社/71分/16mm/長編ドキュメンタリー 構成:飯田心美/撮影:山下兵団報道班員、日本映画社特派員/編集:亀山松太郎/解説:前田晃/後援:陸軍省
◆日本軍の英領マレー及びシンガポール進攻作戦を描くドキュメンタリー。映画は輸送船団に始まり、マレー半島を列車、戦車、自転車などで南下、敵が破壊した橋を修理しながら半島最南端ジョホール・バルに到着。続いてシンガポール総攻撃に移り、ブキテマ高地で激戦の末、大勝利。有名な山下奉文・パーシバル会談などの貴重な記録。
サヨンの鐘 ※ただし1巻が欠落
1943年/満洲映画協会・松竹・台湾総督府/74分/16mm
監督:清水宏/脚本:長瀬喜伴、牛田宏、斎藤寅四郎/撮影:猪飼助太郎/美術:江坂実/音楽:古賀政男
出演:李香蘭、近衛敏明、大山健二
◆清水が当時の植民地・台湾で満映のスター・李香蘭を主演に撮った国策映画。38年に台湾で実際に起きた原住民族の少女の落水事故を基に、『セデック・バレ』の舞台・霧社でロケを敢行。渡辺はま子のヒット歌謡曲を、李香蘭が歌う。主要登場人物はすべて日本人俳優が演じ、現地のタイヤル族住民がエキストラとして出演。
陸軍
1944年/松竹大船/87分/35mm
監督:木下惠介/原作:火野葦平/脚本:池田忠雄/撮影:武富善男/美術:本木勇
出演:田中絹代、笠智衆、東野英治郎、上原謙、三津田健、杉村春子、佐分利信
◆太平洋戦争3周年記念で作られた大作。火野葦平原作をもとに、幕末から日清・日露の両戦争を経て上海事変に至る60年あまりを、ある家族の3代にわたる姿を通して描く。日本人の愛国心に向けて企画された戦意昂揚映画ながら、ラストシーンでは出征する息子を延々と追いかける母の悲痛な思いを描き、“軍国の母”の真の想いを吐露。
桃太郎 海の神兵
1945年/松竹動画研究所/74分/DCP
監督・脚本・撮影:瀬尾光世/構成:熊木喜一郎/影絵:政岡憲三/美術背景:黒崎義介、田中武重/音楽:古関裕而/作詞:サトー・ハチロー
◆桃太郎隊長の指揮下、犬、猿、雉らの落下傘部隊は鬼ヶ島へ向かう…。海軍省の命令で子どもたちに向けて戦意昂揚を目的に製作された日本初の長編アニメーション大作。戦争末期、瀬尾は1週間の体験入隊を行い綿密な取材で映画化。全編にわたる丁寧な演出・作画、撮影技術も素晴らしく、日本アニメの原点。デジタル修復版で上映。
広島・長崎
1945年8月6日広島、9日長崎。世界で唯一の被爆国となった日本。核絶滅を目指し被爆を描いた映画が作られた。
ひろしま
1953年/日教組プロ/104分/デジタル
監督:関川秀雄/原作:長田新/脚本:八木保太郎/撮影:宮島義勇ほか/照明:伊藤一男/音楽:伊福部昭 出演:岡田英次、月丘夢路、原保美、山田五十鈴
◆被爆から8年後の広島で、原爆が投下された直後の惨状を再現した名編。被爆者も含む延べ約9万人の市民がエキストラとして参加。原爆投下後の圧倒的な群衆シーンの迫力は、広島県民の協力なくしてはあり得なかった。企画に賛同した月丘夢路、山田五十鈴らスターが大挙出演し製作された反戦映画。
TOMORROW 明日
1988年/ライトヴィジョンほか/105分/35mm
監督・脚本:黒木和雄/原作:井上光晴/脚本:井上正子、竹内銃一郎/撮影:鈴木達夫/美術:内藤昭/音楽:松村禎三
出演:桃井かおり、南果歩、仙道敦子
◆長崎の原爆投下までの市井の人々の24時間。南果歩の結婚式から、桃井かおり、仙道敦子の三姉妹の「初夜」「出産」「恋人との別れ」を、喪失した爆心地から半径2キロ以内を舞台に描く。翌朝8月9日、11時近く画面は閃光に包まれる…。核は人類に対する大罪とする黒木の祈りに満ちた傑作。この年の監督賞、女優賞(桃井)などを受賞。
黒い雨
1989年/今村プロ・林原グループ/123分/DCP
監督・脚本:今村昌平/原作:井伏鱒二/脚本:石堂淑朗/撮影:川又昂/美術:稲垣尚夫/音楽:武満徹
出演:田中好子、北村和夫、市原悦子、小沢昭一
◆井伏鱒二原作をもとに、原爆被爆者の悲劇を庶民の生活を通して淡々と綴った力作。広島原爆投下後に黒い雨に打たれた娘(田中)。被爆症や戦争の後遺症に苦しむ人々を見つめながら、戦争への怒りを静かに表現しつつ、生きる切なさを暖かく描く。美しいモノクロームの映像や俳優陣の好演が光る今村の代表作。この年の映画賞総なめ。
父と暮せば
2004年/パル企画ほか/100分/35mm
監督・脚本:黒木和雄/原作:井上ひさし/脚本:池田眞也/撮影:鈴木達夫/美術:木村威夫/音楽:松村禎三
出演:宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信
◆長崎原爆をみつめた黒木が、続いて広島原爆をテーマに描いた傑作。井上ひさしの傑作戯曲「父と暮せば」の映画化。広島の原爆投下から3年、生き残った後ろめたさから幸せになることを拒否し、苦悩の日々を送る娘(宮沢)。そんな娘を案じ、亡霊として舞い戻った父(原田)との4日間。宮沢りえの演技が素晴らしく映画賞を独占。
“特攻隊の生還者” 須崎勝彌脚本作品
1943年、学徒出陣で海軍航空隊に招集され特攻隊となり終戦を迎えた。
「カミカゼ特攻」の生還者が手がけたシナリオの数々。
あゝ零戦
1965年/大映東京/87分/35mm
監督:村山三男/脚本:須崎勝彌/撮影:石田博/音楽:木下忠司/美術:高橋康一
出演:本郷功次郎、長谷川明男、青山良彦、根上淳、小柳徹、大橋一元、成田三樹夫
◆真珠湾攻撃にはじまる太平洋戦争下、華々しい戦果を挙げ、若者たちが憧れた戦闘機「零戦」。しかし、グラマンの登場で空中戦は一変。次第に戦闘爆撃機として特攻に使われるようになっていった…。“特攻隊の生還者”須崎勝彌が自らの体験を交え脚色。青春のすべてを捧げ戦場で散った若き兵士たちへの敬愛と惜別を描く鎮魂歌。
太平洋奇跡の作戦 キスカ
1965年/東宝/105分/35mm
監督:丸山誠治/原作:千早正隆/脚本:須崎勝彌/音楽:団伊玖磨/撮影:西垣六郎/美術:北猛夫
出演:三船敏郎、山村聰、佐藤允、中丸忠雄、藤田進、田崎潤、西村晃
◆1943年、アリューシャン列島のアッツ島守備隊が玉砕した。同列島のキスカ島守備隊も、米海軍の砲爆撃による猛攻を受け、玉砕が間近に迫っていた。日本軍も命を救った救出作戦があった! 敵の目を晦まし、幾多の困難を乗り越え、守備隊5000名の奇跡の救出劇を遂げた日本海軍のキスカ島撤退作戦を描く。戦友を救え! 須崎勝彌の本領発揮!!
南十字星
1982年/日本・オーストラリア合作/144分/35mm
監督:丸山誠治、ピーター・マックスウェル/脚本:須崎勝彌、リー・ロビンソン/撮影:岡崎宏三ほか/音楽:佐藤勝/美術:育野重一
出演:中村敦夫、北大路欣也、ジョン・ハワード、胡茵夢、黒木瞳、坂上二郎
◆太平洋戦争中、日本の統治下にあったシンガポールを舞台に、日本軍の通訳官と捕虜のオーストラリア兵の友情を描いた、もうひとつの「戦場のメリークリスマス」。81年の『連合艦隊』に続き須崎の映画脚本の末尾となったのは、国境を越えて敵味方の兵士に芽生えた友情と人間愛を描く和解の戦争映画。西城秀樹が歌った主題歌も大ヒット!!
破滅への道「二・二六事件」
昭和11年(1936)に起こった陸軍青年将校によるクーデター事件。
事件は鎮圧されるも、その後、軍部独裁政治となり、日本は破滅の道へと向かう。
二・二六事件 脱出
1962年/東映東京/96分/35mm
監督:小林恒夫/原作:小坂慶助/脚本:高岩肇/撮影:藤井静/音楽:木下忠司/美術:田辺達
出演:高倉健、江原真二郎、千葉真一、中原ひとみ、三國連太郎
◆数多く映画の題材になった「二・二六事件」。首相官邸への将校たちの侵入から、官邸に生存する首相の奇跡の救出劇を、小林恒夫監督がスリルとサスペンスで描く活劇。将校の側から事件を描くのではなく、逃げおおせる首相の脱出劇として息づまる一触即発の危機の連続から描いた手に汗握る傑作サスペンス! さすが東映! 俳優陣も豪華!!
激動の昭和史 軍閥
1970年/東宝/134分/35mm
監督:堀川弘通/脚本:笠原良三/撮影:山田一夫/音楽:真鍋理一郎/美術:阿久根厳、育野重一
出演:小林桂樹、加山雄三、三船敏郎、黒沢年男、三橋達也、山村聡
◆二・二六事件を契機に軍部の政治進出に拍車がかかり、着々と総力戦体制が作りあげられ、東條内閣成立後、太平洋戦争へと突入していく…。記録フィルムを随所に挿入して、「軍閥」と呼ばれる軍上層部のグループが力を持つに至り、日本が戦禍の渦に呑みこまれていく過程を描く東宝オールスター超大作。東條に小林桂樹、山本五十六は三船。
動乱 第1部 「海峡を渡る愛」第2部 「雪降り止まず」
1980年/東映/150分/DCP 監督:森谷司郎/脚本:山田信夫/撮影:仲沢半次郎/音楽:多賀英典/美術:中村州志ほか 出演:高倉健、吉永小百合、米倉斉加年、田村高廣、佐藤慶、田中邦衛、志村喬
◆高倉健と吉永小百合が初共演を果たし、軍部が台頭する五・一五事件から二・二六事件までの激動の時代を背景に、青年将校とその妻の愛と生きざまを2部構成で描いた超大作。経済恐慌と凶作が重なり庶民が苦しみを強いられていた昭和初期、それでも戦争に進むしか道はなかったのか…。各地で1年がかりで撮影、多彩な俳優陣が結集。
東宝 特撮戦争映画
特撮を円谷英二が担い、一世を風靡した東宝の戦争映画。
史実をもとに数々の戦争スペクタクル映画が作られた
ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐
1960年/東宝/118分/35mm
監督:松林宗恵/脚本:橋本忍、国弘威雄/特技監督:円谷英二/撮影:山田一夫/音楽:團伊玖磨
出演:夏木陽介、三船敏郎、鶴田浩二、池部良、宝田明、佐藤允、田崎潤
◆ハワイ真珠湾奇襲からミッドウェイ海戦までを東宝オールスターで描く超大作。奇襲攻撃から日本軍がひた隠しにした海戦の敗北を、若き海軍兵の北見中尉(夏木)の視点から描く。戦争の実情と死んだ兵士たち、そして銃後をシナリオ化した橋本・國弘の師弟コンビ、さらに円谷の見事な特撮、松林監督の無常観溢れた東宝戦争映画の代表作。
日本海大海戦
1969年/東宝/127分/35mm
監督:丸山誠治/特技監督:円谷英二/脚本:八住利雄/撮影:村井博/美術:北猛夫/音楽:佐藤勝
出演:三船敏郎、加山雄三、仲代達矢、黒沢年雄、佐藤允、藤田進
◆今年は日露戦争から120年。開戦から乃木希典(笠)による旅順攻略、日本海海戦における東郷平八郎(三船)率いる連合艦隊が、世界最強のロシアのバルチック艦隊を撃破するまでを描く戦争スペクタクル巨編。旗艦三笠にZ旗を掲げた東郷の大胆不敵な戦法! 三笠は実際に記念艦として現存する実物で撮影。円谷英二の最後の特撮映画。
連合艦隊
1981年/東宝/145分/35mm
監督:松林宗恵/脚本:須崎勝弥/特技監督:中野昭慶/撮影:加藤雄大/美術:阿久根巖/音楽:服部克久 出演:永島敏行、金田賢一、中井貴一、小林桂樹、森繁久彌
◆連合艦隊による真珠湾攻撃の成功から、ミッドウェイ海戦とレイテ沖海戦の敗北を経て、戦艦大和の最期までを、銃後の2家族の物語を交え描いた戦争大作。43年、大学を繰り上げ卒業し、海軍予備学生として学徒出陣した松林宗恵が、同じ経歴の須崎勝弥とともに反戦の思いを込め描いた戦争体験者による戦争映画の集大成。
巨匠たちの戦争映画
戦争に加担した人もそうでない人も、日本映画の巨匠たちは戦争映画を残している
改めて見る巨匠たちの戦争映画。
戦争と平和
1947年/東宝/100分/35mm
監督:山本薩夫、亀井文夫/脚本:八住利雄/撮影:宮島義勇/音楽:飯田信夫/美術:河東安英
出演:池部良、岸旗江、伊豆肇、菅井一郎、谷間小百合、立花満枝
◆中国での抑留を経て復員した山本と、戦時中に記録映画を手がけてきた亀井との共同監督作品。戦後2年目の焼け野原の東京で撮影。亀井の『戦ふ兵隊』(39年)の実写フィルムも加え、戦死の広報を受けた妻に夫が復員してくるなど、戦争が生んだ男女の悲劇と戦後の希望を描く。占領軍による検閲で30分も削除されている。
風の中の牝雞
1948年/松竹大船/83分/35mm
監督・脚本:小津安二郎/脚本:斉藤良輔/撮影:厚田雄春/美術:浜田辰雄/音楽:伊藤宜二
出演:佐野周二、田中絹代、村田知英子、笠智衆、坂本武、高松栄子
◆小津の復員後第2作で、夫の復員を待つ妻が生活に困窮し幼子の急病と入院のためにやむを得ず身を売って…。一夜限りの過ちに、戻ってきた夫のみならず妻自身も悩み苦しむ…。夫婦の心情的危機をシリアスに描ききった小津の異色作。小津作品では省略される階段が真正面から現れそして息を呑む悲劇へと…。戦争を見つめた小津の傑作。
また逢う日まで
1950年/東宝/111分/35mm
監督:今井正/脚本:水木洋子、八住利雄/撮影:中尾駿一郎/音楽:大木正夫/美術:河東安英
出演:久我美子、岡田英次、滝沢修、河野秋武、杉村春子、風見章子
◆ロマン・ロランの原作をベースに、戦争によって引き裂かれる若いふたりの純愛を描いた今井正の代表作。昭和18年、空襲警報の鳴り渡る地下鉄のホームで出会った学生と貧しい女性画家の悲恋。ガラス越しの接吻シーンとともに日本映画史に燦然と輝くメロドラマの名作。昨年6月に死去した久我美子の初々しさが光る。
壁あつき部屋
1956年/新鋭プロ・松竹/110分/35mm
監督:小林正樹/原作:BC級戦犯の手記より/脚本:安部公房/撮影:楠田浩之/美術:中村公彦/音楽:木下忠司 出演:三島耕、浜田寅彦、岸惠子、小林トシ子、下元勉、信欣三、三井弘次、伊藤雄之助
◆対米感情の配慮から3年間も公開を見送られた問題作。無実でありながらBC級戦犯として投獄された戦争犠牲者の手記を、「壁」で芥川賞を受賞したばかりの安部公房が脚色。上官の密告により投獄された山下(浜田)、米兵捕虜の通訳だった横田(三島)、朝鮮人の許(伊藤)ら無実で投獄された男たちを通し、戦争責任を問う力作。
あゝ声なき友
1972年/松竹・渥美プロ/105分/35mm
監督:今井正/原作:有馬頼義/脚本:鈴木尚之/撮影:堂脇博/音楽:小室等/美術:森田郷平
出演:渥美清、森次浩司、倍賞千恵子、田中邦衛、市原悦子
◆原作を映画化しようと渥美清が独立プロを設立し執念の映画化。渥美の思いに応え、たくさんの俳優たちが大挙出演。全滅した部隊で唯一生き残った男(渥美)。戦後帰国し、家族全員を原爆で亡くし身寄りの無くなった男はなんとか食い繋ぎながら、亡くなった戦友たちの12通の遺書を届けるべく旅に出るが…。隠れた戦争映画の名作。
ひめゆりの塔
1982年/東宝/142分/35mm
監督:今井正/監督協力:神山征二郎/脚本:水木洋子/撮影:原一民/音楽:池辺晋一郎/美術:坂口岳玄ほか
出演:栗原小巻、古手川祐子、大場久美子、斉藤とも子
◆太平洋戦争末期、地上戦になった沖縄で、見習い看護師「ひめゆり隊」として最前線に動員され、無残な死を遂げた女学生たちを描く。今井が監督し大ヒットした前作(53年)を自らリメイク。前作では占領下で撮影出来なかった沖縄で渾身のロケ。某議員のひめゆりの塔を巡る冒涜的発言があった中、本作こそ見てほしい後世に残る歴史作。
東京裁判
1983→2018年/講談社/277分(途中休憩あり)/DCP/長編ドキュメンタリー
監督・脚本:小林正樹/原案:稲垣俊/脚本・監督補佐:小笠原清/編集:浦岡敬一/音楽:武満徹/ナレーター:佐藤慶
◆1945年8月に降伏した日本の戦後の運命を決定づけた極東国際軍事裁判の全貌を描いた大長編ドキュメンタリー映画。戦勝国と敗戦国、国家と人間、戦争犯罪をひき起こしたものは何か。アメリカ国防省が第二次世界大戦の記録として撮影、所蔵していた膨大なフィルムをもとに、小林が五年もの歳月をかけて完成させた情熱と執念の大作!
八月の狂詩曲
1991年/日本・アメリカ/98分/35mm
監督・脚本:黒澤明/原作:村田喜代子/撮影:斎藤孝雄、上田正治/美術:村木与四郎/音楽:池辺晋一郎 出演:村瀬幸子、リチャード・ギア、吉岡秀隆、大寶智子
◆80歳を迎えた名匠・黒澤明が村田の芥川賞受賞作を映画化した29本目の監督作品。長崎近郊の村を舞台に、かつて原爆の恐怖を体験した祖母と孫たちのひと夏を描く。ハワイに住む日系人の血を引く甥にリチャード・ギア。かつて『生きものの記録』(1955年)で原爆の恐怖を描いた黒澤が再び「原爆」を物語の核に据えて、反核を訴える渾身作。
多彩な戦争映画の数々
戦争を題材に、アクション、コメディ、史実を探る作品など、
数多く多彩な戦争映画が作られてきた。その代表的作品を一挙上映!
二等兵物語 女と兵隊・蚤と兵隊
1955年/松竹/95分/35mm
監督:福田晴一/原作:梁取三義/脚本:舟橋和郎、安田重夫/撮影:片岡清/音楽:原六郎/美術:川村芳久、加藤喜昭
出演:伴淳三郎、花菱アチャコ、松井晴志、山路義人
◆伴淳とアチャコのコンビによる二等兵物語シリーズ第1作。帝国軍隊という厳しく不条理な世界で中年二等兵が巻きおこす悲喜劇。伴淳自ら映画化を企画し、軍隊の厳しい鉄格子の中で人間性を剥奪された兵隊たちの様々な群像劇を笑いとユーモアの中で描いた喜劇役者によるマジな戦争コメディ。大ヒットし、その後10本もシリーズ化。
人間魚雷出撃す
1956年/日活/85分/デジタル
監督・脚本:古川卓巳/撮影:横山実/美術:小池一美、千葉一彦/音楽:小杉太一郎
出演:石原裕次郎、長門裕之、津川雅彦、葉山良二、森雅之、杉幸彦、芦川いづみ
◆特攻兵器は飛行機だけでなく人間魚雷も使われた。昭和20年7月、瀬戸内海の特別基地で特攻隊員たちは人間魚雷「回天」の訓練を終え、森雅之の指揮する潜水艦伊号五八で出撃するが…。裕次郎たち日活スターが大挙して出演した戦争青春映画。『太陽の季節』を撮った古川は戦争体験者。特攻の若者たちに共感を込めた反戦アクション!
硫黄島
1959年/日活/88分/デジタル
監督:宇野重吉/原作:菊村到/脚本:八住利雄/撮影:井上莞/音楽:斎藤一郎/美術:木村威夫
出演:大坂志郎、小高雄二、芦川いづみ、山内明、芦田伸介、佐野浅夫
◆戦後6年、新聞社の新米記者は、硫黄島の生き残りの兵士に出会う。彼は当時書いていた日記を取りに、近々硫黄島に渡ると言う…。玉砕した孤島での戦争の悪夢に苦しむ男の数奇な運命を通して、忘れ去られようとする戦争の非人間性を描く異色戦争映画。菊村到の芥川賞受賞作を名優・宇野重吉が自らの戦争体験も重ね合わせ映画化。
零戦黒雲一家
1962年/日活/110分/デジタル
監督・脚本:舛田利雄/原作:菅沼洋/脚本:星川清司/撮影:山崎善弘/音楽:佐藤勝/美術:松山崇
出演:石原裕次郎、二谷英明、大坂志郎、渡辺美佐子、浜田光夫
◆戦争アクション映画も数多く製作されたが、監督・舛田、主演・裕次郎のとっておきの痛快作。太平洋戦争末期、ソロモン群島の小島に孤立した零戦部隊に、ラバウルから単身零戦で中尉(裕次郎)が着任。下士官(二谷)と対立しながらも、海千山千のならず者ぞろいの連隊をまとめ、大空狭しと暴れまくる痛快航空アクション。
戦場にながれる歌
1965年/東宝/131分/35mm
監督・脚本:松山善三/原作・音楽:團伊玖磨/撮影:中井朝一/美術:中古智
出演:児玉清、加山雄三、久保明、二瓶正也、真塩洋一、小林桂樹、佐藤允、加東大介、森繁久彌
◆敗戦色の濃くなった大戦末期に陸軍戸山学校軍楽隊に入隊した若者たち。楽器を持ったこともない彼らが猛訓練の末に演奏できるまでになるも、銃の扱いかたも知らないうちに激戦の北支戦線に送りだされて…。作曲家・團伊玖磨が自らの戦場体験を綴った随想を下敷きに松山善三が脚色、監督。音楽が紡ぐ感動のラスト!
春婦伝
1965年/日活/96分/デジタル
監督:鈴木清順/原作:田村泰次郎/脚本:高岩肇/撮影:永塚一栄/美術:木村威夫/音楽:山本直純
出演:川地民夫、野川由美子、石井富子、玉川伊佐男、今井和子
◆第二次大戦下の中国北部で、一人の兵士に恋をした慰安婦の一途な姿を描く。池部良、山口淑子が主演した『暁の脱走』(1950年、谷口千吉監督)を、鈴木清順監督が川地民夫、野川由美子でリメイク。戦場と化した中国の荒野を舞台に清順美学溢れる怒濤のラブストーリー。戦場を疾駆する圧倒的な存在感の野川由美子が素晴らしい!
サンダカン八番娼館 望郷
1974年/東宝/121分/35mm
監督・脚本:熊井啓/原作:山崎朋子/脚本:廣澤榮/撮影:金宇満司/美術:木村威夫/音楽:伊福部昭
出演:田中絹代、高橋洋子、栗原小卷、浜田光夫、水の江瀧子
◆戦前、日本軍が侵略した地域に必ず作られていた娼館。天草の貧しい家に生まれ少女の頃にボルネオに娼婦として売られ、戦後に帰国して、ひとり極貧の中に老残の身で生きる元“からゆきさん”。田中絹代が演じ、ベルリン国際映画祭女優演技賞をはじめ国内の映画賞を総なめ。ひとりの女性が辿った、想像を絶する地獄の体験を描く感動傑作。
創られ続ける戦争映画の数々
かつて戦争映画は戦争体験者が担っていた。戦争を体験していない世代が作る戦争映画。戦争はいけない!
ゆきゆきて、神軍
1987年/疾走プロ/122分/デジタル/長編ドキュメンタリー
監督・撮影:原一男/製作:小林佐智子/録音:栗林豊彦/編集・構成:鍋島惇
◆1987年の日本映画界を震撼させた驚愕の作品。天皇の戦争責任に迫る過激なアナーキスト・奥崎謙三を追った衝撃のドキュメンタリー。太平洋戦争の飢餓地獄と化したニューギニア戦線で生き残り、「神軍平等兵」として慰霊と戦争責任の追及を続けた奥崎謙三の破天荒な言動を追う。平和ニッポンを鮮やかに過激に撃ち抜いた原一男渾身作。
スパイ・ゾルゲ
2003年/スパイ・ゾルゲ製作委員会/182分/35mm
監督・脚本:篠田正浩/撮影:鈴木達夫/美術:及川一/音楽:池辺晋一郎
出演:イアン・グレン、本木雅弘、椎名桔平、上川隆也、永澤俊矢、小雪
◆太平洋戦争直前の日本を舞台に、ロシア人スパイ、リヒャルト・ゾルゲの姿を通して、激動する時代を描いた歴史サスペンス大作。10年間あたためてきた企画を映画化し、篠田の監督引退作となった。ゾルゲと共にスパイ活動に殉じた新聞記者・尾崎(本木)の平和への思いも描きつつ、痛恨の思いで戦争を見つめる。3月死去した篠田の追悼上映。
火垂るの墓(実写版)
2008年/パル企画/100分/35mm
監督:日向寺太郎/原作:野坂昭如/脚本:西岡琢也/撮影:川上皓市/音楽:谷川公子、渡辺香津美/美術:木村威夫、中川理仁
出演:吉武怜朗、畠山彩奈、松坂慶子、松田聖子、江藤潤、原田芳雄
◆スタジオジブリの名作アニメ映画を実写映画化。2006年に亡くなった黒木和雄監督が実写映画化したいと企画していたのを弟子の日向寺が意志を継ぎ執念の映画化。1945年6月、アメリカによって大空襲を受けた神戸。空襲で母を亡くし、出征中の父とも連絡が取れなくなった14歳の清太と幼い妹・節子のあまりに過酷な運命を描く。
野火
2015年/海獣シアター/87分/DCP 監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也/原作:大岡昇平/撮影:林啓史/音楽:石川忠
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作、中村優子
◆第二次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島を舞台に、野戦病院を追い出され、さまよう日本軍兵士の姿を追う。1959年に市川崑により映画化された大岡昇平の同名小説を戦後70年を機に塚本晋也が監督・脚本・製作・主演で再び映画化。戦争という極限状況下、あまりに凄惨で地獄絵のような心象風景を描いた新たなる名作。
海辺の映画館 キネマの玉手箱
2020年/製作委員会+アスミック・エース/179分/DCP
監督・脚本:大林宣彦/脚本:内藤忠司、小中和哉/撮影:三本木久城/音楽:山下康介/美術:竹内公一
出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦
◆尾道にある海辺の映画館の閉館の日、三人の若者が戦争映画特集を見ていたところ、突如劇場に稲妻の閃光が走り、三人は、戊辰戦争、日中戦争、沖縄戦、そして原爆投下前夜の広島へとタイムリープ。そこで移動劇団『桜隊』と出会った三人は、桜隊を救うため、運命を変えようと奔走するが…。最期まで平和を願った大林宣彦の遺作。
特別上映
Yokosuka1953
2021年/日本/107分
監督・撮影・編集・出演:木川剛志/撮影:上原三由樹、関戸麻友/ナレーション:津田寛治
出演:バーバラ・マウントキャッスル
◆1947年、神奈川県横須賀市で外国人と思われる父と日本人の母・信子の間に生まれたバーバラさんは、5歳の時に母と別れて養子縁組で渡米し66年が経った。映像作家・木川剛志の元に寄せられたSNSのメッセージが縁となり、戦後の歴史の波に翻弄された混血孤児の数奇な運命をたどるドキュメンタリー。
イベント
7/26(土)14:30 永田喜嗣さん
(戦争映画研究家・『戦争映画を解読せよ!』著者) ※『ハワイ・マレー沖海戦』の上映後に行ないます。
7/31(木)18:40 春日太一さん (映画史研究家) ※『あゝ零戦』の上映後に行ないます。
8/1(金)13:40 春日太一さん (映画史研究家) ※『あゝ声なき友』の上映後に行ないます。
8/2(土)13:45 西村正男さん (関西学院大学社会学部教授) ※『サヨンの鐘』の上映後に行ないます。
8/30(土)13:30 渋谷哲也さん (ドイツ映画研究) ※『ゆきゆきて、神軍』の上映後に行ないます。
9/6(土)16:30 日向寺太郎監督(『火垂るの墓』監督) ※『火垂るの墓』の上映後に行ないます。
入場料金
当日券
一般1600円、シニア1300円、会員・学生1200円、ハンディキャップ・高校生以下1000円
回数券
一般5回券6500円、シニア5回券6000円、会員・学生5回券5500円
※5回券は複数人数での使用不可 ※会員5回券は本人のみ(同伴者1名まで1本1200円)
※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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