成瀬巳喜男 略歴

1905(明治38)年8月20日、東京に生まれ、20年に松竹蒲田撮影所に入社、小道具係から助監督に転じて30年に短篇喜劇『チャンバラ夫婦』で監督デビュー。やがて“蒲田の女王”栗島すみ子が主演した『夜ごとの夢』(33)の優れた叙情性が認められ、若手のホープとなる。トーキーが撮りたくて、新会社P.C.L.(後の東宝)へ移籍して、トーキー傑作を手がける。戦時中は「芸道もの」に活路を見出し、戦後は『めし』(51)、『夫婦』(53)、『妻』(同)の「夫婦もの三部作」、林芙美子原作で『稲妻』(52)、『晩菊』(54)、『浮雲』(55)などを連作し、日本映画の頂点を極める。饒舌な台詞を排し、登場人物たちの視線のやりとりや小さな身ぶりの積み重ねによって情感あふれるドラマを織り上げてゆくその手法は、撮影の玉井正夫、美術の中古智など東宝撮影所の名スタッフたちの協力を得て、個々の作品に映画芸術の一つの到達点ともいえる輝きを得て、今なお放ち続けている。シネ・ヌーヴォでは、生誕120年の今年、4月26日〜6月13日の7週間にわたって、映画館では稀有な全36本をほぼ35ミリフィルムで一挙上映。観客から大絶賛を受け、期間中さらにアンコール上映を企画し、観客の皆さまからリクエストを募集。その声をもとに、今回16作品のアンコール上映を実施します。

溝口健二、小津安二郎、黒澤明と並ぶ日本を代表する映画監督・成瀬巳喜男。日常生活の心理の綾を至高の映像表現に昇華させた世界的巨匠。スタジオの量産システムのなかで活躍し、日本映画の黄金期を駆け抜けたメロドラマのアルチザン。
生誕120年を記念し、今年のGWに7週間に渡って開催した「成瀬巳喜男レトロスペクティブ」。大好評に付き、アンコール上映を開催します。前回の会期の後半、「見てみたい、もう一度見たい」成瀬作品を大募集しました。今回、リクエストの多い作品や初登場の成瀬作品など、16作品を「アンコール」として一挙上映。貴重な国立映画アーカイブ作品も多数上映する稀有な機会。再び、成瀬作品と出会う至福の時!!
(国立映画アーカイブ作品は、上映回数に制限があるうえ、フィルム上映にも細心の注意が課されています。また映画料が配給会社に支払う費用に加え、国立映画アーカイブにも支払わなくてはならず、已むを得ず料金が少し高くなっていることをご了承くださいませ)

上映作品

提供:国立映画アーカイブ

女優と詩人

1935年/P.C.L./72分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:中野實/脚本:永見隆二/撮影:鈴木博/美術:久保一雄/音楽:伊藤昇
出演:宇留木浩、千葉早智子、藤原釜足、三遊亭金馬、佐伯秀男、神田千鶴子、戸田春子、三島雅夫

◆松竹からP.C.L.に1934年に移籍した成瀬が『乙女ごゝろ三人姉妹』に続き監督したトーキー第2作。童謡作詞家(宇留木)は女優の妻(千葉)の稼ぎで暮らす、髪結ならぬ女優の亭主。妻は家でも演技の稽古に励み、家事は夫に任せきりという二人をコミカルに描く。成瀬初期の愛すべき佳作。

提供:国立映画アーカイブ

桃中軒雲右衛門とうちゅうけんくもえもん

1936年/P.C.L./73分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:眞山青果/脚本:成瀬巳喜男/撮影:鈴木博/美術:北猛夫/音楽:伊藤昇
出演:月形龍之介、細川ちか子、千葉早智子、藤原釜足、伊東薫、三島雅夫、市川朝太郎、小杉義男、御橋公、小澤栄

◆明治時代に一世を風靡した実在の浪曲家・桃中軒雲右衛門の半生を描いた伝記映画で、成瀬がその後しばしば取り組んだ「芸道もの」の一篇。芸のためなら妻や息子を顧みない奔放な浪曲師を、月形龍之介が吹き替えなしで名演。夫の出世に献身的に尽くす三味線弾きの妻を演じた細川ちか子が素晴らしい!

 

歌行燈

1943年/東宝映画/93分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:泉鏡花/脚本:久保田万太郎/撮影:中井朝一/美術:平川透徹/音楽:深井史郎
出演:花柳章太郎、山田五十鈴、柳永二郎、大矢市次郎、伊志井寛、瀬戸英一、村田正雄

◆泉鏡花の同名小説を映画化。花柳章太郎結成の新生新派の面々が大挙出演。花柳演じる芸の道に生きる能楽宗家の跡取りの波乱の生涯を描く。芸が人を殺し、芸が人を助ける――戦時下ながら異色の非時局的大作。林の木漏れ日の中で秘技を伝授するシーンなどの傑出した演出に「芸道もの」秀作。

提供:国立映画アーカイブ

愉しき哉人生

1944年/東宝/77分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/脚本:成瀬巳喜男、八住利雄/撮影:伊藤武夫/美術:北川恵司/音楽:鈴木靜一
出演:柳家金語樓、山根寿子、中村メイコ、横山エンタツ、花岡菊子、渡辺篤、清川玉枝、小高たかし

◆敗戦が色濃くなった太平洋戦争末期、物資不足を物語の背景にしたミュージカル仕立ての喜劇。ある町に現れた父娘3人が「よろづ工夫屋」を開店、いがみ合う町内の人々に、貧しくてもつらくても、気の持ちようで明るく楽しくなれると説いて…。成瀬作品の中でも異色も異色、楽しい不思議なコメディ作品。

提供:国立映画アーカイブ

浦島太郎の後裔

1946年/東宝/83分/35mm/白黒
監督:成瀨巳喜男/脚本:八木隆一郎/撮影:山崎一雄/美術:安部輝明/音楽:山田和男
出演:藤田進、高峰秀子、山根壽子、管井一郎、進藤英太郎、花澤德衛、飯田房江、矢の島ひで子、鹿野千代子、靑野太郎、中村伸郎、杉村春子、三津田健、龍岡晋、宮口精二

◆成瀬の戦後最初の作品にして異色作。奇妙な叫び声で人気を得た元復員兵・浦島五郎(藤田)を、新聞社は政党に売りつけ、政党は民衆の扇動に利用して…。高峰は“美しい頭、中は空っぽ"(?)の新聞記者を演じる政治を扱った風刺劇。後の大争議となる東宝従業員組合のストライキの最中に公開された。

提供:国立映画アーカイブ

舞姫

1951年/東宝/85分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:川端康成/脚本:新藤兼人/撮影:中井朝一/美術:中古智/音楽:齋藤一郎
出演:高峰三枝子、山村聰、二本柳寛、片山明彦、岡田茉莉子、木村功、澤村貞子、見明凡太朗、大川平八郎、谷桃子バレエ団

◆川端康成原作の映画化で、裕福な家族の絆の崩壊と再生の物語。考古学者の夫(山村)とバレエ教室を営む妻(高峰)には、長年に渡ってできた深い溝と、妻が結婚前に交際していた男(二本柳)への夫の嫉妬があり、別れ話にまで発展してしまう。妻はバレリーナの夢を娘(岡田)に託し…。岡田茉莉子のデビュー作。

 

銀座化粧

1951年/新東宝/87分/35mm→デジタル/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:井上友一郎/脚本:岸松雄/撮影:三村明/美術:河野鷹思/音楽:鈴木靜一
出演:田中絹代、花井蘭子、堀雄二、香川京子、柳永二郎、東野英治郎、田中春男、小杉義男、三島雅夫

◆大女優・田中絹代を主役にして、戦後の復興最中の銀座で女給として生きる女たちを哀愁を込めて描いた抒情詩的作品。ひとり息子を育てながらバーで働く雪子(田中)は、同僚の知人である石川(堀)を東京見物に案内した縁で淡い恋心を抱くが…。「女」と「母」の両面を田中絹代が見事に演じた佳作。

 

おかあさん

1952年/新東宝/98分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/脚本:水木洋子/撮影:鈴木博/美術:加藤雅俊/音楽:齊藤一郎
出演:田中絹代、香川京子、岡田英次、片山明彦、加東大介、鳥羽陽之助、三島雅夫、中北千枝子、三好榮子、一の宮あつ子、本間文子、澤村貞子

◆戦災で焼けたクリーニング店を再興しようと団結する一家。全国の小学生から募集した作文から着想を得て、初めて成瀬作品に参加した水木洋子が脚色。夫や息子を失いつつも懸命に生きる母(田中)、とその姿を見つめる娘(香川)。母を中心に健気に生きる姿を描いた家庭劇。成瀬の最高作との呼び声も高い1本。

 

浮雲

1955年/東宝/122分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:林芙美子/脚本:水木洋子/撮影:玉井正夫/美術:中古智/音楽:齋藤一郎
出演:高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子、山形勲、中北千枝子、加東大介、木匠マユリ、千石規子、金子信雄

◆戦時中、インドシナで出会った男(森)と女(高峰)が戦後、出会いと別離を繰返し、くされ縁のままに堕ちていく…。戦中から戦後にかけての混乱期をただ流されていった一人の女への鎮魂歌。高峰・森の名演も素晴らしい日本映画史上に輝く成瀬畢生の傑作。ラストシーンの美しさは映画史の頂点!
◎キネマ旬報ベストテン第1位

提供:国立映画アーカイブ

妻の心

1956年/東宝/98分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/脚本:井手俊郎/撮影:玉井正夫/美術:中古智/音楽:齊藤一郎
出演:高峰秀子、小林桂樹、千秋実、三船敏郎、中北千枝子、三好栄子、根岸明美、杉葉子、加東大介、田中春男

◆家業建て直しのため、副業として喫茶店を持とうとする薬問屋の夫婦(高峰・小林)。従来の成瀬作品の“妻”よりも積極的で、自ら環境を変えて行こうとする人妻を高峰が好演。夫婦ものに、転がり込む兄夫婦を加え、家族劇としての厚みが加わった佳作。三船敏郎がシャイな青年を好演。

 

流れる

1956年/東宝/116分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:幸田文/脚本:田中澄江、井手俊郎/撮影:玉井正夫/美術:中古智/音楽:齊藤一郎
出演:田中絹代、山田五十鈴、髙峰秀子、岡田茉莉子、杉村春子、栗島すみ子、中北千枝子、賀原夏子、宮口精二、加東大介、中村伸郎

◆時代に取り残されていく芸者置屋の女将とその周囲の女たちを豪華絢爛たる女優たちで描いた不朽の名作。没落していく置屋の女たちを女中(田中)の目から見た幸田文原作を映画化。内に秘めたセリフ、ショットの数々、カット割りとも日本映画の一つの頂点。栗島すみ子の戦後唯一の映画出演作。

提供:国立映画アーカイブ

杏っ子

1958年/東宝/109分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/原作:室生犀星/脚本:田中澄江、成瀬巳喜男/撮影:玉井正夫/美術:中古智/音楽:斎藤一郎
出演:香川京子、木村功、山村聰、小林桂樹、三井美奈、加東大介、千秋実、佐原健二、中村伸郎、藤木悠、中北千枝子

◆高名な小説家(山村)の娘(香川)と結婚した小説家志望の男(木村)が、才能の無さを自覚しきれず荒んだ暴君となる姿を凝視した力作。成瀬の作品歴の中でも屈指のふがいない男を木村功が熱演。方向性をみうしない、しかし何かを求め続ける夫婦の陰惨さを淡々と描く成瀬の真骨頂!

 

夜の流れ

1960年/東宝/111分/35mm/カラー
監督:成瀬巳喜男、川島雄三/脚本:井手俊郎、松山善三/撮影:安本淳、飯村正/美術:松山崇、北辰雄/音楽:斉藤一郎
出演:司葉子、山田五十鈴、宝田明、三橋達也、白川由美、水谷良重、草笛光子、三益愛子、越路吹雪、志村喬、星由里子

◆花街の芸者置屋を舞台に、同じ板前の男(三橋)を愛した女将(山田)と娘(司)の姿を描く佳作。古い世代の人物が登場する場面を正統派・成瀬が、若い世代を異才・川島雄三が担当する共同監督作品。川島らしいテンポの良さと、成瀬の落ち着いたストーリー運びの違いが楽しめ、それぞれの対比が興味深い。

 

秋立ちぬ

1960年/東宝/79分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/脚本:笠原良三/撮影:安本淳/美術:北辰雄/音楽:齋藤一郎
出演:乙羽信子、夏木陽介、原知佐子、加東大介、河津清三郎、大澤健三郎、一木双葉、藤原釜足、賀原夏子、菅井きん

◆父に死なれ、東京築地にある母(乙羽)の実家に預けられた6年生の少年と、母が女中として住み込む旅館の娘とのはかない友情を、下町の情緒を交えて綴る。母子家庭となった少年の秋立つ風が吹くまでのひと夏の体験。大人たちの露骨な生活の間に翻弄される子供たちの世界を描く秀作。

提供:国立映画アーカイブ

妻として女として

1961年/東宝/106分/35mm/カラー
監督:成瀬巳喜男/脚本:井手俊郎、松山善三/撮影:安本淳/美術:中古智/音楽:斎藤一郎
出演:髙峰秀子、淡島千景、森雅之、仲代達矢、星由里子、水野久美、淡路惠子、飯田蝶子、丹阿弥谷津子

◆銀座のバーの雇われマダム(高峰)は、オーナー(淡島)の夫で大学教授(森)の愛人だった。子供が産めない妻の子供たちは、実はマダムが産んだことを知らずに育ち…。愛人と妻の座がぶつかり合う高峰・淡島の火花散る演技はすさまじく、どっちつかずの男を演じる森の名演も見事な成瀬の名編。

 

乱れる

1964年/東宝/98分/35mm/白黒
監督:成瀬巳喜男/脚本:松山善三/撮影:安本淳/美術:中古智/音楽:斉藤一郎
出演:高峰秀子、加山雄三、草笛光子、白川由美、浜美枝、三益愛子、藤木悠、北村和夫、十朱久雄、浦辺粂子、柳谷寛、佐田豊、中山豊、矢吹寿子、中北千枝子

◆戦死した夫に代わり酒屋を営む未亡人(高峰)に、義弟(加山)が恋心を抱き…。終盤の道行に至って至高の輝きを放ち出すメロドラマの傑作。実家へと帰る高峰を追って、急行列車に乗り込んだ加山が少しずつ距離を縮めてシーンなど、緊張感を感じさせる心理描写など成瀬映画の頂点!!

入場料金

当日券

★国立映画アーカイブ(NFAJ)作品:一般1900円、シニア1600円、学生・会員1500円、ハンディキャップ割引1000円
                 ※各種割引なし、招待券・回数券使用不可
上記以外の作品:一般1600円、シニア1300円、学生・会員1200円、ハンディキャップ割引1000円

回数券

一般3回券4500円、シニア3回券4200円、会員3回券3900円 ※こちらの回数券はどちらの作品にもご使用いただけます。

 

※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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