没後20年 黒木和雄監督特集
反権力を貫き、徹底的に自由を愛し戦争を憎んだ映画監督・黒木和雄。
商業主義から遠く離れ悪戦苦闘しつつ創り続けたその映画の軌跡は、映画を志す若者たちを鼓舞し圧倒的な」影響を与えた。
没後20年、代表作3作を一挙上映!

黒木和雄 略歴
◆1930年11月10日、母親の実家である三重県松阪生まれ。神戸、宮崎県飯野町(現えびの市)を経て、5歳のときに父の仕事先である旧満州に家族と渡る。同地で小学生にして映画に熱狂する。12歳のときに中学受験のため家族と離れ、祖父母の住む宮崎県飯野町に帰る。43年小林中学に入学、45年学徒動員され、5月8日に沖縄から飛来したグラマン機の攻撃で学友10名を一瞬にして失う。その体験からノイローゼになり、一年間休学。47年新制高校となった小林高校に復学。50年同志社大学政治学科に進み岡本清一ゼミで学ぶ。◆学生運動に身を投じたのち、54年中退、東映京都に入るが、すぐに岩波映画製作所演出部に入社。『佐久間ダム』(高村武次監督)、『ひとりの母の記録』(京極高英監督)などの助監督に付く。58年、短編『東芝車両ELECTRIC ROLLING STOCK of Toshiba』で初監督。59年の『海壁』、翌年の『ルポタージュ・炎』でPR映画ながら作家主体性を盛り込み評価を集める。やがて仏ヌーヴェル・ヴァーグに衝撃を受ける。また土本典昭、東陽一、小川紳介、大津幸四郎、久保田幸雄、鈴木達夫、岩佐寿弥らと「青の会」を結成。映画を貪欲に見、語り合う。『わが愛北海道』(62年)の劇映画的なつくりで決定的に会社と対立し退社。64年、孤独なマラソンランナー・君原健二を描いたドキュメンタリー『あるマラソンランナーの記録』で高い評価を得る。しかし、黒木の独創的な映画つくりは、PR映画の枠を超えるもので、次々とトラブルを重ねてきた歴史でもあった。◆64年、友人の松川八洲雄が企画を持ち込んでくれたことから初の劇映画『とべない沈黙』を撮る。しかしまたも「わけのわからない映画」としてオクラ入りするが、映画を見た評論家、映画人たちが高く評価し、66年にATGでようやく公開。斬新な表現と現代性で熱狂的なファンを生む。続いて『キューバの恋人』(69年)、『日本の悪霊』(70年)、『竜馬暗殺』(74年)、『祭りの準備』(75年)と意欲作を発表。とりわけ『竜馬暗殺』は圧倒的な評価を得て、その後の映画を志す若者たちに大きな影響を与えた。またその現代性、即興性に打たれた勝新太郎によりTV作品の演出に招かれ、「新・座頭市」「警視-K」などの演出者の一員ともなる。80年代以降も、『夕暮まで』(80年)、『泪橋』(83年)、長崎原爆投下の24時間を描いた『TOMORROW/明日』(88年)でキネマ旬報日本映画監督賞と年々評価が高まる。『人情紙風船』(37年)を見て感銘を受け、83年に文芸坐社長・三浦大四郎とともに山中貞雄の菩提寺・京都大雄寺で「第1回山中忌」を主宰。90年には久々の時代劇『浪人街』を完成後、体調を崩し入院。また『浪人街』も勝新太郎の麻薬事件で公開が半年も遅れるなど不運が重なる。入院は半年にわたる長期となる。その後、体調の回復を図るとともに、テレビ作品をいくつか仕上げる。97年1月のシネ・ヌーヴォ開館の際には顧問に就任。亡くなるまで、大きな励ましをいただき続けた。またこの年、東京アテネ・フランセ文化センター、シネ・ヌーヴォ梅田で特集上映が行なわれる。◆2000年に10年ぶりの劇映画『スリ』で復帰。翌年、自らの戦争体験を描いた『美しい夏キリシマ』を故郷えびの市の実家でクランクイン。キネマ旬報ベストテン1位・監督賞など高い評価を受ける。続く広島原爆が題材の『父と暮せば』は高い評価に加え興行も成功し、70歳にして売れっ子監督となり数々の企画が入るようになる。しかし、本人のライフワークは山中貞雄伝を撮ることだった。わずか28歳で中国戦線で戦病死した希代の天才監督の映画化を20数年間熱望。毎年秋の命日に山中忌を主宰し、山中への想いを深めるとともに何人かの劇作家とシナリオを完成するが実現に至らず、最後まで映画化を熱望していた。◆遺作となったのは、戦争を題材にした4作目『紙屋悦子の青春』(06年)。その完成後、公開を待たずに2006年4月12日急死。享年75歳。寄しくもその日は『紙屋悦子の青春』の最後の場面と同じ日であった。6月9日「黒木和雄監督とのお別れ会」が東京・日本青年館で開かれ、関西では母校・同志社大学で6月22日に「偲ぶ会」が催され、たくさんの映画ファンが別れを惜しんだ。生前、同志社大学岡本ゼミの同級生たちと京都・鳴滝に共同墓「自由の碑」を建立。そこで仲間たちと永眠。2026年、没後20年を迎えた。
上映作品
とべない沈黙
1966年/100分/日本/35mm
監督・脚本・編集:黒木和雄 脚本:松川八洲雄、岩佐寿弥 撮影:鈴木達夫 ◎美術:山下宏 音楽:松村禎三 録音:加藤一郎 スチル:森山大道
出演:加賀まりこ、平中実、小沢昭一、戸浦六宏、山茶花究、木村俊恵、長門裕之、蜷川幸雄、五月美沙、小松方正、渡辺文雄、田中邦衛、坂本スミ子
◆それまで岩波映画などでPR映画の枠を超えた独創的な作品で注目されていた黒木和雄の劇映画第一作。一時オクラ入りされていたが、映画を見た映画人たちから高い評価を得てATG系で公開された。北海道にはいないはずの南国蝶(ナガサキアゲハ)を少年が捕まえるが、「北海道にいるはずがない」とその存在は教師に否定され、蝶は廃棄される。それをプロローグに、映画はその少年を目指して、蝶の化身(加賀まりこ)が生地長崎から北海道に向かう過程を、場所場所に分けたオムニバス的形式で描きはじめる。広島では被爆した少女、京都では戦争で青春を失った中年男をはじめ、萩、大阪、横浜、東京など日本列島を縦断しながら、戦争と時代に翻弄された人間たちの痛烈な思いが、ごった煮的なエピソードの中で炸裂する。息を呑む映像美と多彩な細部は黒木作品のトレードマークとなる。浮遊する蝶の姿は満州帰りの黒木自身の姿とも重なり、その後『美しい夏キリシマ』でも登場する。
美しい夏 キリシマ
2002年/日本/118分/35m
監督・脚本:黒木和雄 脚本:松田正隆 撮影:たむらまさき 音楽:松村禎三 録音:久保田幸雄 照明:佐藤譲 美術:磯見俊裕 編集:阿部亙英
出演:柄本佑、原田芳雄、左時枝、牧瀬里穂、宮下順子、平岩紙、石田えり、小田エリカ、中島ひろ子、寺島進、入江若葉、甲本雅裕、眞島秀和
◆終戦当時15歳の少年だった黒木和雄が、終世忘れることのできない痛切な体験をもとに、次世代に向けて渾身の力で描いた群像劇。描かれるのは戦場ではなく、銃後の九州・宮崎の美しい村。戦争という暴力は、戦場で戦う兵士だけでなく、銃後に生きる人々にも向けられている事実を静かに描き、数々の映画賞に輝いた名作!!
「『美しい夏キリシマ』は戦争をえがいた映画です。しかし、殺し殺される凄惨な戦場が舞台ではありません。敗戦間近な南九州の片田舎の物語です。私は15歳の少年でした。そこでも人々は悲しみ、笑い、苦しみ、愛しあって懸命に生きていました。半世紀たって、忘却の闇にともすれば埋もれてしまう私自身の記憶を、渾身こめてよみがえらせ、この映画をとおしてあの時代の哀歓と悲傷をなんとか伝えたいと思いました。この映画を、戦争の足音が間近にきこえてくるような日々のなか、あかるい未来を望む観客の皆様の魂のみぎわにまでお届けできればと切に願っています。」黒木和雄
『美しい夏 キリシマ』はレイティングは 「G 」(すべての方にご鑑賞いただける作品)でございますが、一部性表現がございます。予め、ご了承ください。
紙屋悦子の青春
2006年/113分/日本/35mm
監督・脚本:黒木和雄 原作:松田正隆 脚本:山田英樹 撮影:川上皓市 音楽:松村禎三 美術:木村威夫 照明:尾下栄治 録音:久保田幸雄
出演:原田知世、永瀬正敏、松岡俊介、本上まなみ、小林薫、和田周、角田一雄
◆戦争を見つめた映画を次々と発表する黒木も75歳を過ぎ、念願の「山中貞雄伝」の映画化を熱望するも、脚本作りが難航。先に取り掛かったのが、その脚本のコンビを組んだ松田正隆の戯曲だった。「戦争レクイエム」三部作に続き、戦争という暴力による悲劇を四度見つめるとともに、友情の大切さを訴える渾身作だった。敗色濃厚な第2次大戦末期、特攻で死に行く男が愛する女性を親友に託そうとする男女3人の出会いと痛切な別れを情感豊かに描く。映画の最後の場面の日付となった4月12日、いみじくもその日が黒木の命日となった。本作のロードショーは夏に行われ、公開の日をみることなく亡くなった黒木の追悼上映となった。黒木が亡くなって20年、世界で戦争が終わることなく、黒木が憎んだ戦争への恐れがますます高まり、あの時代の空気が色濃くなってきている。本作は、決して繰り返してはならない戦争への訣別、平和の尊さを、声高ではなく庶民の眼差しから描き出している。
入場料金
当日券
一般1600円、シニア1300円、会員・学生1200円、高校生以下・ハンディキャップ1000円
※8/14(金)10:00『美しい夏 キリシマ』のみ「夏休みの映画館」関連上映
特別料金:こども(高校生以下)500円、お得なセット割:(一般1人+子ども1人)1500円
一般1500円、シニア1300円、会員1200円、学生1000円※招待券・回数券使用不可
※ご鑑賞の7日前から窓口とオンラインでチケットのご購入が可能です。ご鑑賞当日はオンライン予約の方は専用窓口で発券、当日券の方は窓口で指定席をお選びの上、開始時間の10〜15分前からご入場いただきます。
<全席指定席>となります。満席の際はご入場出来ませんので、ご了承下さい。
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