Meisterwerke der DEFA-Filme DEFA映画の名作集2019
ベルリンの壁崩壊30年 東ドイツの映画と歴史
DEFA(デーファ Deutsche Film-Aktiengesellschaft-ドイツ映画株式会社-)について
山根恵子
1945年第二次世界大戦末期ドイツが敗戦した後、西側を占領したアメリカ、イギリス、フランスの連合国はドイツで映画製作を始めるのは未だ早いと考えたが、東側を占領したソ連は異なる文化政策を行った。1945年10月末スターリンは、ソ連とドイツが共同で映画製作会社を設立する許可を与え、「フィルム・アクティブ」という作業チームを設置させた。映画産業再開の準備は順調に進み、1946年2月に戦後初の週刊ニュースDer Augenzeuge(目撃者)をベルリンで公開するに至った。同年5月4日には、ヴォルフガング・シュタウテ監督が劇映画Die Mörder sind unter uns(殺人者は我々の中にいる)の撮影を開始した。
正式なDEFAの創設は1946年5月17日、戦前ドイツ映画の黄金期を築いたUFA(ウーファUniversum-Film-Aktiengesellschaft)の関係者らが中心となり、ポツダム=バーベルスベルクの撮影所を拠点として、映画製作を本格化した。1990年の東西ドイツ統一前、DEFA社には約40名の監督、4000名を超える従業員が所属し、1992年にその歴史を閉じるまで、1000本以上の劇映画、約950本のアニメーション、3000本以上のドキュメンタリー、2500本に及ぶニュース映像を製作していた。DEFA作品のジャンル、内容の豊富さ、芸術性の高さは、まさに「壁の向こうのハリウッド」と呼ぶにふさわしい。
現在、DEFA撮影所で製作された全作品の権利は、1998年に設立されたDEFA財団が所有し、過去となった東ドイツの映像文化遺産を、国内だけでなく広く世界に紹介している。
2019年11月9日、ベルリンの壁が崩壊して30年を迎えます。この歴史的な出来事によって東ドイツが崩壊し、長年にわたり国民の生活や思想、文化、芸術活動に影響を与え続けた社会主義政策も終焉へ向かいます。
1946年、東ドイツに国営の映画製作会社として設立されたDEFAは、国による厳しい管理体制と検閲の下でも話題性と芸術性に優れた映像作品を数多く輩出し続け、注目を集めました。DEFA作品には、当時の東ドイツで暮らす人々の日常の姿とともに、夢や葛藤、希望がありのままに映し出されています。
ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都は、DEFA財団の協力を得て、この30周年を記念した特集上映を企画し、9本のアニメーション作品を含む計19作品をご紹介します。中でも、浚渫現場で作業員として働きながら、シンガー・ソングライターとして東ドイツで人気を博したゲアハルト・グンダーマンの生涯を描いた『グンダーマン』(2018年)は日本初公開です。監督のアンドレアス・ドレーゼン氏も来日し、今年ドイツ映画賞6部門で最優秀賞を受賞した同作品への思いを語ります。
オフィシャルサイト→https://www.goethe.de/ins/jp/ja/sta/osa/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=21633880
上映作品
①『裸で狼の群のなかに-Nackt unter Wölfen-』
1963年(DEFA)/監督 フランク・バイヤー/124分(白黒)
◆1945年、終戦間近のブーヘンヴァルト強制収容所に移送されてきた囚人ヤンコフスキー。彼が抱えてきたトランクの中には、それまでナチスから匿ってきた小さな男の子が入っていた。二人の囚人ピッピヒとヘーフェルは男の子を貴重品倉庫に隠そうとするが、それは収容所の中の抵抗組織までも危険にさらすことに・・・。しかしいつしか少年の存在は、囚人たちにとって危険なだけではなく、希望や抵抗の象徴となっていた。強制収容所内の生活を描いた最初のドイツ映画として知られる同作品は、1938年から終戦まで政治犯としてブーヘンヴァルトに収容されていたブルーノ・アピッツが書いた同名小説をフランク・バイヤー監督が映画化。1963年に東ドイツ国家賞、ならびにモスクワ国際映画祭銀賞受賞。
②『君が大人になったら、アダム-Wenn du groß bist, lieber Adam-』
1965/1990年(DEFA)/監督 エゴン・ギュンター/74分
◆電車の中で助けた白鳥から、お礼に不思議な懐中電灯を受け取ったアダム少年。そのライトに照らされると、嘘をついた人間の体は浮き上がるのだ。懐中電灯の不思議な力に魅了されたアダムと父親のゼップは同じものを製造販売しようと試みる。最初は興味を集めた懐中電灯だが、人々の間に混乱が生まれ始めると、次第に誰も見向きしなくなっていく。
撮影中から検閲で一部シーンが台本から消され、66年にはクランクアップ目前に製作自体が中止となった作品。1990年に復元・公開するにあたり、映像と別に保管されていた音声の一部が壊されていることがわかり、劇場公開時には欠落部分を無声&テキスト挿入で補完上映した。
③『石の痕跡-Spur der Steine-』
1966年(DEFA)/ 監督 フランク・バイヤー/ 139分(白黒)
◆ハネス・バラは、過酷な労働条件と資材不足が常態化している巨大建築現場を仕切る親分肌の作業員。乱暴ながらも成果を上げるバラの手腕が買われ、彼らのチームは特別優遇されていた。そんなある日現場に新任の党書記ホアラートがやってくる。反発し合いながらも次第にお互いを認め始めるバラとホアラート。しかし若い女土木技師カティの存在が二人の微妙なバランス関係を揺さぶりはじめ・・・。
原作は1964年に発表され、東ドイツ国家賞を受けて記録的なベストセラーとなったたエーリク・ノイチュの同名小説。「反体制傾向がある」ことを理由にプレミア上映後に上映禁止となる。1989年10月に東ドイツで再び公開されるやたちまち話題となり、1990年のベルリン映画祭でも上映された。
④『45年生まれ-Jahrgang 45-』
1966/1990年(DEFA)/ 監督・脚本 ユルゲン・ベトヒャー/95分(白黒)
◆プレンツラウアー・ベルクに暮らす若い夫婦アル(アルフレート)とリー(リザ)は離婚を決めた。二人が暮らす小さなアパートは、今にも崩れそうな古い建物。自動車整備工で熱狂的なバイク好きのアルは、内気で消極的な性格に悩んでいる。新生児室の看護師として働くリーは、危機的な二人の関係を冷静にとらえ、アルが心を開いてくれるのを待っている。二人が再び幸せに暮らせる日は来るのか――。
画家でドキュメンタリー映像作家としても有名なベトヒャーが、初めて制作した唯一の劇映画。イタリアのネオレアリズモに通じるモノクロ映像で描かれた60年代若者の自由奔放な生き方は、編集の段階から厳しい検閲に遭い、1990年まで公開されなかった。
⑤『パウルとパウラの伝説-Die Legende von Paul und Paula-』
1973年(DEFA)/ 監督 ハイナー・カーロウ/106分
◆パウルとパウラは昔からの顔見知り。というのも二人は近所同士なのだ。パウルは仕事では順調にキャリアを伸ばしているが、プライベートでは冷え切った夫婦関係に不満を抱いている。一方パウラは二人の子供を育てるシングルマザー。お互いを意識し始めると、すぐに情熱的な恋に落ちる二人。しかし、それは悲しいロマンスの始まり――。
300万人の観客を動員したDEFA最大のヒット作品の一つ。公開が危ぶまれたが、当時の党書記長エーリヒ・ホーネッカーが「若者に見せたい」と賛同し、上映が許可された。主演のアンゲリカ・ドムレーゼとヴィンフリート・グラットツェーダーは国民的スターになり、ロックバンドPuhdys(プーディズ)は、映画の主題歌ともに大ブレーク。1979年に演劇で、2004年にはオペラとして上演された。
⑥『嘘つきヤコブ-Jakob der Lügner-』
1974年(DEFA)/ 監督 フランク・バイヤー/ 100分
◆舞台は戦争末期の1944年、ポーランドにあるユダヤ人ゲットー。
ある日、ゲシュタポ本部に出頭したヤコブは偶然耳にしたラジオ放送でロシア軍が近づいていることを知る。処罰を免れ家に戻ると、生きる希望を失いかけている仲間を勇気づけようとラジオで聞いたニュースを話して聞かせるヤコブ。しかし誰にも信じてもらえず、とっさに「ラジオを持っている」と嘘をついてしまう。ラジオの情報は住民たちに希望を与え、自殺者が減るが、一方ヤコブは皆を失望させたくない一心で偽ニュースを提供するために嘘をつき続けることになる。
幼少期をウッチのユダヤ人ゲットーで過ごし、後にザクセンハウゼンの強制収容所に抑留された経験をもつ作家ユーレク・ベッカーの小説が原作。DEFAの長編劇映画の中で唯一アカデミー賞最優秀外国語映画賞にノミネートされたほか、99年にはハリウッドでもロビン・ウィリアムズ主演で再映画化された。
⑦『ソロシンガー-Solo Sunny-』
1980年 (DEFA) / 監督 コンラート・ヴォルフ & 監督・脚本 ヴォルフガング・コールハーゼ/ 104分
◆70年代後半の東ドイツ。ベルリン・プレンツラウアーベルクに住む歌手サニーは、ソロシンガーとしての成功を夢見ながらバンドと共に地方巡業に出るが、彼女を取り巻く現実はなかなか厳しい:彼女に思いを寄せるタクシー運転手のハリーは即物的過ぎるし、哲学者のラルフとは一度は恋人関係になったものの裏切られ、しつこく付きまとうノーベルトとは喧嘩騒動になった挙句、癇にさわる司会者ベノ・ボーネのせいでバンドを飛び出す羽目に…。そんな中でもサニーは懸命に夢を追い続ける――。
DEFAを代表する監督の一人コンラート・ヴォルフが、脚本家として最も有名なヴォルフガング・コールハーゼの協力を得て制作した最後の劇映画作品。国の内外で高い評価を受け、1980年ベルリン国際映画祭で銀熊賞、同年シカゴ国際映画祭でゴールド・メダルを受賞。
⑧『冬よ さようなら-Winter Adé-』
1988年(DEFA)/ 監督 ヘルケ・ミッセルヴィッツ/ 117分 (白黒)
◆ベルリンの壁崩壊の一年前、ドキュメンタリー映画監督のヘルケ・ミッセルヴィッツは「人々はどのように生きてきて、どのように生きていくのか」を聞き取るために電車で東ドイツを縦断した。世代も社会的立場も異なる女性たちが、電車や職場、或いは彼女たちの自宅で、家族や周囲との軋轢、女性蔑視への不満など自身の人生について率直に語る。
1988年に開催された第11回東ドイツドキュメンタリー&短編映画祭で初めて上映された。温かく自然なタッチで映し出される東ドイツの日常が高く評価され、「政治的タブーをも破る繊細なドキュメンタリー作品」と称された。
⑨DEFAアニメーション選集-9 Trickfilme- 1957~1990(DCP)
◆・『青いネズミはどこにもいない』1957 11分
・『対戦相手を倒すには』1963 5分
・『こんにちは、Hさん』1965 14分
・『石器時代の話』1965 10分
・『伝説の鳥トゥリパンを探しに』1976 13分
・『ちょうちょのフリドリン』1982 10分
・『カフカの夢』1989 8分
・『SITIS-扉』1989 11分
・『お隣さんたち』1990 5分
⑩『建築家たち-Die Archtekten-』
1990年 / 監督・脚本 ペーター・カハーネ / 102分
◆ダニエルは30代後半の建築家。バス停留所などの設計を手がけるかたわら、建築コンペに応募したりしている。そんなある日、ベルリン郊外に建設が予定されているアートセンターの設計を依頼される。待望のビッグプロジェクトを成功させるため、かつての仲間を召集して張り切るダニエル。しかしメンバーは一人また一人とチームを去り、最後に残ったのは大学を卒業したばかりの新人二人を含むたった7人。7人は夢を実現すべく、レストランや売店、文化施設、遊技場、緑地帯を備えた斬新なセンターを設計する。数々の困難に見舞われながらも全力で仕事に打ち込むダニエル。そんな中で大勢の人が東ドイツを離れ、最後にはダニエルの家族までもが、彼を残して西へと去ってゆく。旧態依然とした規制がチームを悩ませ、ようやく着工したときには、当初の設計図は見る影も無くなっていた。
東ドイツ最末期に制作されたDEFA劇映画の一つ。社会主義体制のほころびを厳しく勇敢に批判する。1989年9月に撮影を開始、ベルリンの壁崩壊に至るまでの東ドイツ社会の混乱状況の中で完成した貴重な作品。当時の若い芸術家たちの自己実現の苦悩と悲痛な叫びを、美しい映像を通して感じ取ることができる。
⑪『グンダーマン-Gundermann』
2018 / 監督 アンドレアス・ドレーゼン / 128分
◆東ドイツのシンガー・ソングライター、ゲアハルト・グンダーマン(1955-1998)の激動の生涯を描いたフィルモグラフィー。昼間は工事現場で掘削機を操縦しながら、仕事が終わるとステージに上がり、自作の曲で人々に感動を与えていたグンダーマン。多くの人から愛され人気を博した楽曲制作のエピソードをはじめ、シュタージの密告者でもあったグンダーマンの横顔や、後に妻となる女性コニーとの出会いについて描きます。
芸術派監督として知られるアンドレアス・ドレーゼンの12作品目となる同作は、2018年8月にドイツで劇場公開され、今年6つの映画賞を獲得した。中でもドイツ映画の最も栄誉ある賞とされるドイツ映画賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞を含む6部門で最優秀賞を獲得して注目を集めた。
イベント
10/6(日)16:50『グンダーマン』上映後トーク
ゲスト:アンドレアス・ドレーゼン監督
入場料金
当日券
一般1,500円/学生、シニア1,100円/会員1,000円
※ご入場は各回10分前より整理番号順となりますので、本前売券も受付にて入場券とお引き換え下さい。
整理番号付き入場券は1週間前より窓口、オンラインにて発行いたしております。
スケジュール
10月5日(土)
16:10 『裸で狼の群の中に』
18:35 『君が大人になったら、アダム』
20:10 『石の痕跡』
10月6日(日)
16:50 『グンダーマン』
19:00 アフタートーク アンドレアス・ドレーゼン監督(60分)
20:20 『嘘つきヤコブ』
10月7日(月)
16:10 『君が大人になったら、アダム』
17:45 『石の痕跡』
20:25 『裸で狼の群の中に』
10月8日(火)
17:10 『45年生まれ』
19:00 『パウルとパウラの伝説』
21:00 『ソロシンガー』
10月9日(水)
17:20 『嘘つきヤコブ』
19:15 『45年生まれ』
21:05 『パウルとパウラの伝説』
10月10日(木)
16:25 『冬よ さようなら』
18:45 『DEFAアニメーション選集』
20:35 『建築家たち』
10月11日(金)
16:45 『DEFAアニメーション選集』
18:30 『建築家たち』
20:35 『冬よ さようなら』